考察
恋愛経験の有無と恋愛志向性の違いが異性との対人葛藤対処方略の選択に及ぼす影響の検討
恋愛経験の有無が対処方略選択に与える影響を検討する。対処方略ごとの比較において恋愛経験の有無による有意差はみられず,仮説1は十分に支持されなかった(Table4参照)。しかし恋愛経験のある者のうち,恋人を欲しいと思う者の方が思わない者よりも相互妥協的な対処方略をとる傾向が高いという結果が得られた(Table4参照)。本研究において,仮説が支持されなかった理由を考える。髙坂(2011)において「恋愛群」とは現在恋人がいるものを指すものである。しかし,自分の分類の仕方は「現恋愛群」ではなく「恋愛経験群」としている。つまり過去に恋愛しているが現在は恋愛していないというものも含まれているために,髙坂(2011)をもとに推測した恋愛経験群が「統合スタイル」をとるとした仮説に影響を与えているのではないか。今後は明確な分類が必要かもしれない。
また,多川(2003)の恋愛における相互作用が個人の内面,対人関係観へ影響を与えるという研究においては,恋愛関係の質的な側面に注目がされている。本研究において恋愛経験の有無に関して,単に過去から現在における異性の恋人の有無を二者択一で回答を求めており,今までに付き合った人数や期間,交際期間中の親密度などは考慮されていない。恋愛経験の質的な違いにも考慮することが今後の課題とされる。
次に,恋愛志向の違いが対処方略選択に与える影響を検討する。恋人を欲しいと思う者は自己譲歩的な対処方略をとるという結果が得られ,仮説2は支持された(Table4参照)。また恋人を欲しいと思わない者のうち,恋愛経験のない者の方がある者よりも相互妥協スタイル得点が高いという結果が得られ,仮説3が一部支持された(Table4参照)。やはり,恋人を欲しいと思う者は,異性との対人葛藤時において,他者の意見を受け入れ,かつ自分の意思を主張しない方略をとるとわかった。
葛藤相手(異性)との関係性の違いが対人葛藤方略選択に及ぼす影響を検討
仮説4は支持されず,葛藤相手が恋人であっても友人であっても,対処方略選択に違いがないという結果となった(Table5参照)。ただ,本調査において,葛藤相手を回答させる際に,単に「恋人」,「友人以上恋人未満」,「友人」,「その他」から選択をさせている。しかし,例えば恋人関係では,恋人との年齢差や付き合った期間,相手への好意度や相手との親密度などの違いが存在する。今後の課題として,葛藤相手との関係性の違いをより詳しく考慮することが必要である。
総合的考察と今後の課題
本研究では,恋愛経験の有無と恋愛志向性が異性との対人葛藤時における対処方略選択にどのように影響を及ぼすのかについて検討を行った。その結果,以下のことが明らかになった。第1に,恋愛経験の有無による異性との対人葛藤方略選択の違いは確認されなかった。第2に,恋愛志向の違いが異性との対人葛藤方略選択に影響を与えるという結果が得られ,恋人を欲しいと思う者は自己譲歩的な方略をとることが明らかとなった。また恋人を欲しいと思わない者のうち,恋愛経験のない者がある者と比べて相互妥協的な方略をとることも明らかになった。第3に,葛藤相手との関係性の違いによって対処方略選択の違いは確認されなかった。
結果から,恋人を欲しいと思う者は,異性との対人葛藤時において,自分の意見を強く主張することなく,相手の考えを優先させる傾向にあるとわかった。この結果は,髙坂(2011)の恋愛希求群の特徴より推測した仮説通りのものであった。今後の展望として,恋人を欲しいと思う者が,実際に恋人関係になりたい相手に対してはどのような方略をとるのかについて検討していきたい。また恋人を欲しいと思う者が,具体的な恋人関係に発展したいと考えている相手がいるのか,漠然と恋人という存在が欲しいと思っているのかの違いを検討することができるだろう。
本研究において,恋愛経験の有無と葛藤相手の違いによって対処方略選択に及ぼされる影響はないという結果になったが,本研究において以下のような問題があると考える。仮説の設定,それに伴って調査の内容の検討が不十分であったという点である。恋愛経験の有無については,今までに付き合った人数や期間,交際期間中の親密度なども考慮すべきだっただろう。葛藤相手についても,恋人関係では,恋人との年齢差や付き合った期間,相手への好意度や相手との親密度など様々な関係性が存在する。同様に友人関係でも親しさの程度にばらつきがあったかもしれない。恋愛志向,つまり本調査における恋愛希望の質問については,恋人を欲しいと思うか思わないかの二者択一よりも小さい分類の仕方は難しいと考えられる。もちろん,恋愛志向性についても,本当は恋人を欲しいと思っているが現実に得られると思えずに「欲しいと思わない」としている場合なども存在すると考える。より質的に,より深く考慮する必要があっただろう。本研究において検討が不十分であったと反省して,今後,より詳細な検討を通して恋愛経験の有無,恋愛志向性による異性との対人葛藤対処方略の違いを明らかにし,異性との対人葛藤研究に貢献したい。