1.はじめに
近年「キレる」「攻撃する」「物に当たる」といった不適切な怒り感情の表出が小中学生を始めとし,大学生や成人など様々な年齢層で幅広く問題視されている。従来,怒り感情を理解する際に,怒り感情の喚起や表出に与える影響要因や原因についての研究がされてきた。大渕・小倉(1985)は,怒りの対象には親しい人がなりやすいこと,また心理的被害を感じたり,悪意を知覚したりする出来事の方が,より怒りを喚起させやすいことを示しており,Ben-Zur & Breznitz(1991)は,怒りを喚起する要因として,損傷(の程度)・(加害者の)意図性・(事態の)予測性の順で怒りを喚起させやすいということを明らかにしている。このように今までは怒りの原因を追究する研究が行われてきたが,日比野・湯川(2004)は,怒りへの対処という観点から見ると,原因を突き止めるよりも怒りを“コントロール”するための具体的方法を探求する方がより重要であると考えられると述べている。つまり,怒りへの対処を考える際に,今までのように怒りの表出について“どのような理由で怒り感情が起こったのか”,“どのような関係の人に対して起こった怒り感情であったのか”,“怒り表出をした人がどのような性格の人であったか”等の,怒りの要因に焦点を当てて原因について考え,原因を取り除く方法を考えるよりも,経験した怒り感情に対して,その後“どのように対処することが出来るか”ということに焦点当て,実際にどのような方法が怒り感情をコントロールすることが出来るかを探求することに焦点を当てることの方が重要であるということである。
人々は経験した怒り感情を様々な方法によって表出している。湯川・日比野(2003)によると,怒りを経験した直後の反応は“怒り緩和行動”と“怒り増幅行動”の二つに分けることが出来ると述べられている。“怒り緩和行動”は,“社会的共有”,“合理化”,“忘却”,“気分転換”,“攻撃行動”,“原因究明”,“物への転嫁”の7つのパターンに分類され,一方の“怒り増幅行動”は,“精神反芻”,“攻撃行動”,“社会的共有”,“原因究明”,“物への転嫁”の5つのパターンに分類されている。“攻撃行動”,“社会的共有”,“原因究明”,“物への転嫁”の4つのパターンの怒り表出行動は,怒りを緩和行動と怒り増幅行動のどちらにも含まれている。つまり,場合によっては怒りを経験した際にその行動を取ることで怒り感情を緩和させ,気持ちを落ち着かせることが出来ることができるが,場合によっては怒り感情をさらに増大させてしまうこともあると考えられる。このように怒り感情を落ち着かせることが出来る怒り緩和行動は,怒り経験後に行う適切な怒り感情の表出行動であると言えるが,怒り増幅行動は,その人の怒り感情をどんどん大きくし,自分で怒りの感情をコントロールできなくなってしまったり人を傷つけたりする可能性があるため,不適切な怒り感情の表出行動であると言えるだろう。そこで,このような近年問題となっている不適切な怒り感情の表出への対処に焦点をあてて検討していく必要がある。
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