1.はじめに
私たちは,日頃の生活のなかで多くの人と様々な関係性を構築して,その相手とコミュニケーションをしているわけであるが,相手との関係性に応じて「会話」の仕方を変えている。具体的には,言葉遣いや話の仕方を相手との関係性に応じて様々に使い分けている。例えば,目上の人にはかしこまった言い方をしたり,親しい友人については砕けた言い方をしたりといった具合である。一般的には,目上の人に対する会話では,丁寧な表現や相手に敬意を持った表現をするわけであり,友人同士での会話では,丁寧である必要はそれほどなく,親しみのある表現や固苦しくない表現が用いられるわけである。相手との関係性に応じて話し方や言葉遣いを変える(=選択する)という行為は,相手への配慮を意味するものととらえることもできる。相手との関係やコミュニケーションを良好に円滑にするために,また伝える内容が聞き手にとってネガティブなものにならないように,「配慮」の意識が促進される。こういった言語的な配慮が話し手と聞き手との関係を損なわないような方略となっている側面もある。
会話のなかでも,相手に何かをしてほしい時などの要求をする場合は,上の立場からの命令や指示の場合もあるが,依頼や要請といった場合は,やはり相手への「配慮」が必要である。相手に否定的な印象を伝えてしまうと要求は通らない可能性が高くなる。要求が通るように配慮をする,つまり会話の中での表現を工夫することになるわけである。
ところで,一般的な大学生は,大学生活のなかで様々なコミュニティに所属し,その中で多くの他者と関わり合っている。大学生のコミュニティとしては次のようなものが挙げられる。所属している学部や学科,サークル,部活,その他学生団体等である。また学外でのアルバイト先での同年代のスタッフ仲間も大学生が所属するコミュニティといえる。因みに全国大学生協連の学生生活実態調査(2021)によると,大学生のアルバイト就労率は2021年時点で7〜8割,サークル所属率は6割程度であった。多くの学生が学部学科以外のコミュニティを持っていることになる。
このような大学生の所属するコミュニティにはいろいろな学生がいるわけで,学年も違えば所属学部も異なる多くの学生が存在していることもある。そのため,そういうコミュニティでは,学年や性別など属性の異なる相手に対しては,それぞれ会話の仕方や言葉遣いを選択しながらコミュニケーションを行っていると考えられる。
また,大学生活のなかで学生同士協同して物事に取り組む機会も多くある。例えば授業のなかでグループ課題があればメンバーと話し合ったり協力して作業をすることになるし,アルバイト先では他者と一緒に仕事をし,組織の運営をすることもあるであろう。
そういった様々な場面や状況のなかで,そこでの人間関係を良好なものにしていくことを考える上で,会話によるコミュニケーションは極めて重要な要素である。会話の中身は当然のことながら,そこでどのような言語表現を用いるのか,それぞれ選択をしていると考えられる。
本研究では,大学生が日常的なコミュニティのなかで,人間関係を良好に円滑に進めていく上での,とくに相手に何かを要求する場面での要求表現について検討する。相手との関係性としては,上下関係の他に,親しさの程度などが考えられるが,それらによって言語表現がどのように変わり,どのような要求表現が適切な表現といえるのか検討する。
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