1.はじめに
日常生活でやらなければならない課題や仕事になかなか取り掛かれないといった先延ばし行動は,私たちの日常生活でよく経験する行動である。やるべきことが消えてなくなるわけではないと分かっていながらも,「まだ大丈夫だろう」,「今日は遊びに行きたい」,「とりあえず見たかった映画を見よう」など時に人は自分の感情を優先してしまうことがある。授業で課されたレポートの作成を締め切り間際になって慌てて始めて,結果として質の低いレポートを提出したり,取引先に出すメールや上司に提出する報告書の作成を後回しにしてしまって,ビジネスチャンスを逃したり,自分の評価を下げたりしてしまうこともあるだろう。このように多くの人や組織が先延ばしによって苦い経験を持っているにもかかわらず,先延ばしはなくならない。
大学生では,学習領域における課題先延ばし行動は一般的によくみられる行動であることが指摘されている(Ellis & Knaus, 1977; 亀田・古屋,1996; 藤田,2006)。また,中高生を対象とした研究においても,大学生と同様に先延ばし特性と不安などの否定的感情の関連(Owens & Newbegin, 1997)や,学業成績の低さ及び教科への自信の無さとの関連が示されている(Owens & Newbegin, 1997; Owens & Newbegin, 2000)。具体的には,期日の決められた宿題やレポート,試験勉強などについて,提出締め切りや重要な試験の日が迫ってきているのに他のことをしたり、気になりつつも放っておいたりするなどの行動が当てはまる。また,このような先延ばし行動は,試験勉強や日々の宿題,課題などよりも,学期末のレポートなどにおいてよく起こることも報告されている(藤田,2008)。
大学生の生活の中では,多くの授業や講義を受講していると,教員から提出日が決められた課題やレポートを課されることも多い。そういった課題は少しでも早く取り組み始めれば,楽で確実に提出できると分かっているはずなのに,取り組むまでに時間がかかってしまい,提出日の間近になって慌ててしまう,または,終わらせることが困難になってしまうといった傾向の者も多い。先延ばしを行った結果,課題の提出期限に間に合わなかったり,間に合ったとしても完成度が低くなってしまったりするなどの失敗も起きている。その結果上司や同僚、周囲からの評価が下がったり,信頼を失ったり,「責任感のない人」というレッテルを貼られたりして,成長の機会を失う恐れもある。このように先延ばし行動は,学生の学業生活に悪影響を及ぼす不適応な行動であることが明らかとなっている(小浜,2012)。
しかし先延ばしの中には,意図的に計画を立てて物事を後回しにする場合もある。小浜(2014)は全ての先延ばしが不適応ではないことを示している。先延ばしの際に生じやすい意識から先延ばしを3パターンに分け,3パターンそれぞれの先延ばしを行いやすい者の学業遂行について検討した結果,計画を持って行われる先延ばしは,学業成績に好影響を与えることが明らかとなった(小浜,2014)。つまり,計画的に気分の切り替えができる先延ばしは不適応ではないことを示している(小浜,2014)。そのため,課題を先延ばししないようにするのではなく,上手く先延ばしをすることが重要な点だと考えられる。
本研究では,課題を先延ばししないようにするという点ではなく,上手く先延ばしをすることが重要であるという点に注目し検討する。また,大学生は学業のみならず,部活動・サークル,アルバイトなど,様々な活動を同時に行っているため,必然的に同時期に遂行すべき課題が多く,少なからず先延ばし行動が選択されると考えられる。そのため,小中高生ではなく大学生を対象とする。
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