2. 先延ばし行動(procrastination)の定義
レポートや書類の提出,納税など,何らかのやらなければならないことを行わない,あるいは遅らせる現象のことを先延ばし(procrastination)と呼ぶ(Lay,1986)。また,Solmon & Rothblum(1984)は,先延ばしとは「主観的な不安や不快感を経験する時点まで,不必要に課題を遅らせる行為である」と定義しているが,Tuckman & Sexton(1989)は,「自己コントロール下での活動を一時的または完全に回避あるいは延期する傾向」,亀田・古屋(1996)は,「自己のコントロール下にあり,主観的に重要であると思われる課題の遂行を,一時的または完全に回避したり,そのことから逃避すること」と定義している。これらの定義において共通しているのは,少なくとも,人がやろうと思えればできるはずのことを「不必要」に先延ばししていることを自覚しているような行動である,ということだと言える(藤田,2012)。
このように,課題への意図した一連の行動の開始,あるいは完了の遅延(Ferrari, 1993; Lay & Silvelman, 1996)や,行動の遅延によって事態がより悪化することが予想されるにも関わらず,自発的に遅らせること(Steel, 2007)が先延ばしの定義として挙げられている。
また,このような先延ばし行動は,課題の開始,もしくは完了を意図的に遅らせる行為であるのか,自らの意図に反した行動であるのかの議論が行われている。増田(2010)は,遅らせることが意図的ではなく,一連の行動を計画する段階,及び継続して遂行中の段階での計画や見通しの甘さなどの意識的な行為の結果として,実際の行動の遅延に繋がることを強調している。また,小浜(2010)は,先延ばしを“やらなければならないと思いながらも,一時的に課題とは無関連,あるいは課題を妨害する行動をとる現象”と定義し,意図した行為だけでなく,非意図的に先延ばしをする(していた)現象,すなわち,気づいたら先延ばしをしていた,といったような意識されていない行動も先延ばしに含めて検討している。
本研究では以上の先延ばしの研究を踏まえ,意図的な先延ばしも,非意図的な先延ばしも「先延ばし行動」と捉えることとする。
2-1.先延ばしの経験率
先延ばしは日常的に起こり得ることであるが,高齢層よりも若年層において経験されることが多いとされている(Beutel et al,2016)。Beutel et al.(2016)による調査研究では,14〜29歳の最年少集団で先延ばし得点が最も高く,それ以上の年齢層では減少していくことが報告された。また,最年少集団のうち,学生や生徒は,仕事をしている人と比べ,先延ばし得点が有意に高かった(Beutel et al,2016)。
このように若年層の先延ばし傾向が高いとされているが,多くの先延ばし研究では,特に大学生に着目されることが多い。その理由は,データの収集が容易であるためだけではなく,課題の性質などから先延ばしの現象がよく観察できるためである(森,2017)。実際,大学生の先延ばし傾向は高く,黒住・外山(2017)が大学生209名に実施した調査研究において,「あなたは”先延ばし“をどの程度しがちだと思いますか?」という質問に,「よくする」と答えた者は58%,「たまにする」と答えた者は31%という結果となった。そのため本研究でも,大学生を対象とする。
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