3. 学業的満足遅延(academic delay of gratification)と能動的先延ばし(active procrastination)について


 先延ばし行動に対する研究として,学業的満足遅延や能動的先延ばしの研究が存在する。不適応的な先延ばしとは異なる,意図的に行い課題の達成を促進する適応的な先延ばしのことを,能動的先延ばし(active procrastination)と呼ぶ(吉田,2017)。そして,将来の価値ある結果を手に入れるために,価値が低いと思う欲求を満足させる行動を抑制し,自らに課した満足の遅延から生じるフラストレーションに耐えることを満足遅延(delay of gratification)という(Mischel, 1974)。その中のひとつである,質問紙法を用いて実施した満足遅延行動に関連する研究として,近年注目されているものに学業的満足遅延(academic delay of gratification)がある。

 これは学業場面に限定した満足遅延行動を測定するものであり,学業を優先させることで持続的な学習効果をもたらすため,学業達成において重要な役割を持つとされている。学業達成場面で,「試験に合格する」,「良い成績をとる」等,将来のより価値の高い目標を達成するために,「今すぐ遊びたい」,「今すぐ寝たい」等の欲求あるいは衝動を直接的及び即時的に満たそうとすることを自制し,先延ばしすることと定義される行動である(Bembenutty & Karabenick, 1998)。学業の満足遅延ができる学習者は,動機づけ,自己効力感が高く学習方略の使用が多いこと,継続的な学習を行い,優れた成果を得やすいことが明らかにされている(Zhang & Maruno, 2009)。

 これまでの研究から,長期的に見て報酬を得ることができる見通しがあることや,未来にポジティブな展望を持つことにより,学習者は課題の達成という長期的な報酬を選びやすくなり,欲求や衝動よりも適切に学習を優先させることができると考えられる。



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