総合考察


3. 課題をうまくこなすコツについて

 仮説6の検討のため,自由記述の中の「うまくこなせた理由やコツ」について,KJ法を用いて11のまとまりにカテゴリー分けを行った。そして7人以上いるカテゴリー8つとBig5および先延ばし意識特性尺度の各下位尺度との一要因分散分析による検討を行った。

 その結果,Big5の下位尺度である「勤勉性」において1%水準,先延ばし意識特性尺度の下位尺度である「状況の楽観視」において5%水準,先延ばし意識特性尺度の下位尺度である「計画性」において1%水準で主効果が見られた(順にF(7,107)=2.949;p<.010,F(7,107)=2.584;p<.050,F(7,107)=2.904;p<.010)。そのため事後検定としてトゥーキー法による多重比較を行った結果,Big5の下位尺度である「勤勉性」において,「B:隙間時間」と「G:睡眠時間を削る」との間に5%水準で有意差が見られた。また先延ばし意識特性尺度の下位尺度である「計画性」においても,「B:隙間時間」と「G:睡眠時間を削る」との間に5%水準で有意差が見られた。しかし,先延ばし意識特性尺度の下位尺度である「状況の楽観視」においては,多重比較の結果いずれの間にも有意な差が見られなかった。

 仮説1,2より,勤勉性が高いと,気分の切り替えが上手く,計画を立てたり先の見通しを持った行動を行ったりするため,隙間時間を効率的に使うことが出来たのだろう。一方勤勉性が低いと,課題があるような状況の中でもどうにかなるだろう,まだよいだろうと思ったり,見通しをもった行動をとらなかったりすることが多いため,隙間時間を使わずに,最終的に睡眠時間を削って課題を行ったのだろうと推察できる。また,計画性が高いと,課題に取り組む前に時間配分を決めたり必要な作業を把握したり,適度に休憩時間を決めたりしているため,隙間時間を見つけたときに何をすればよいか見通しを持て,友好的に時間を使うことが出来たと考えられる。しかし計画性の低いと,行き当たりばったりというようにやらなければならないことを事前にリストアップできていないため,隙間時間を有効的に使えずに徹夜や寝る間を惜しんで課題に取り組むことが多くなるのだと考えられる。状況の楽観視については,多重比較で有意差が見られなかったが,平均値が大きい人は睡眠時間を削ったり,周りのサポートを受けたり,課題への興味のカテゴリーに属しており,平均値の小さい人はすぐ課題に取り掛かったり,計画性があったり,課題とは別のところにモチベーションを見出したりしているというカテゴリーに属していた。したがって状況の楽観視の平均値の高さが高いほどぎりぎりまで課題に取り組まずに徹夜したり,他の人から資料をもらったり手伝ったりしてもらうことが多く,低い人ほど計画を立てて取り組んだり,すぐに始めたりしていることが多いため,課題に責任感を持って取り組もうとしているか,見通しを持って行動できるかという差が見られるのではないかと考えられる。

 以上より良い先延ばしとは,計画を立てたり見通しを持ったりした上で,隙間時間を有効に使いながらやらなければならないことを少しずつでも進められることだと考えられるため,仮説6も支持された。これらの良い先延ばしに当てはまるカテゴリーとして,「A:計画性」,「B:隙間時間」を取り上げて考察する。「A:計画性」の記述として,『すべてのワークについて取り組む日付を決めて,それを全て付箋に書いて終わったらはがすようにした。』や『今日はこれをするといった予定をきちんと立てるようにしたこと。調整するための日も作っておいたこと。』,『ゴールから逆算。』などがあった。吉田(2017)は,能動的先延ばしを取り上げ,先延ばし行動自体を認めて能動的にプランニングに組み込んでいくことで,先延ばしを気晴らしや気分転換と捉えられると示唆している。つまり,課題を今すぐにやらなくても具体的に計画を立てて,自分の活動の中に課題を行う予定を組み込んでおくことが重要であると言え,本研究の自由記述のカテゴリーの中の「A:計画性」で実行されているのではないだろうか。「B:隙間時間」の記述として,『隙間時間を無駄にしない。予定が終わった後,合間に少しずつでも取り組む。』や『電車での移動時間に課題を進めたこと。』,『通学の電車の中である程度内容を考えておき,それを家でレポートにまとめた。考える時間は家や大学などパソコンを使わなくてもできる場所で行うことがコツ?』などがあった。対象である大学生は学業のみならず,部活動・サークル,アルバイトなど,様々な活動を同時に行っているため,必然的に同時期に遂行すべき課題が多く,先延ばしを行いやすいと考えられている。本研究でも,部活動やアルバイトなどで忙しく,1日の間に課題を行う時間を十分に取ることが出来ないという記述が多くみられた。その中でも課題を上手くこなせた理由として隙間時間を有効に活用するという意見が多くあり,勤勉性や計画性との関連も見られたことから,少しでも空いている時間を見つけて課題を行うということが「B:隙間時間」のカテゴリーで実行されているのではないだろうか。

 したがって,良い先延ばしとは,課題の内容について一度は考え自分なりの意見が持てていたり,資料が集まっていたり,具体的な日程や時間の計画を立てられている,またはそこからさらに先延ばしをしてしまっても,さらなる先延ばしの先の計画を立てられていたり,隙間時間を有効に使うことができるということだと考えられる。

 今,良い先延ばしができていない人あるいは良くない先延ばしをしている人は,まず課題の締め切り日を全て書き出し優先順位を決めることや,今日やることを決めてから1日を始めることや,通学時間に課題を行ったり,考えをまとめたりして何もしない時間を少なくすることなどから始めてみることで,良い先延ばしに近づくのではないかと示唆できる。



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