総合考察
2.Big5性格特性と先延ばし意識特性尺度が課題着手日に与える影響について
仮説2,5の検討のため,Big5の下位尺度「外向性」,「協調性」,「勤勉性」,「神経症傾向」,「開放性」と先延ばし意識特性尺度の下位尺度「先延ばし後の否定的感情」,「先延ばし前の否定的感情」,「先延ばし中の肯定的感情」,「気分の切り替え」,「状況の楽観視」,「先延ばし中の否定的感情」,「計画性」をそれぞれ独立変数に,課題着手日に関する質問の下位尺度「条件1(A:易しい,B:興味あり,C:80%)」,「条件2(A:易しい,B:興味あり,C:10%)」,「条件3(A:易しい,B:興味なし,C:80%)」,「条件4(A:易しい,B:興味なし,C:10%)」,「条件5(A:難しい,B:興味あり,C:80%)」,「条件6(A:難しい,B:興味あり,C:10%)」,「条件7(A:難しい,B:興味なし,C:80%)」,「条件8(A:難しい,B:興味なし,C:10%)」をそれぞれ従属変数にして重回帰分析を行った(Figure1)。
勤勉性から先延ばし意識特性尺度の「先延ばし中の否定的感情」に対して正の影響,先延ばし中の否定的感情から「条件4(A:易しい,B:興味なし,C:10%)」,「条件7(A:難しい,B:興味なし,C:80%)」に対して正の影響が見られたことから,勤勉性が高く,先延ばし中に否定的な感情を抱きやすい者は,課題に早く取り組み始めることが明らかとなった。また,自由記述のA〜G,Kの8つのカテゴリーとBig5および先延ばし意識特性尺度の各下位尺度において1要因8水準の一要因分散分析,多重比較を行った結果,勤勉性が高いものは隙間時間を使うことが明らかとなった。よって仮説2は支持された。
Big5性格特性の下位尺度である「勤勉性」から,先延ばし意識特性尺度の下位尺度である「状況の楽観視」に強い負の影響があり,「状況の楽観視」からはレポート課題着手日に関する質問のすべての条件に負の影響があるため,勤勉性が高いとどのような条件の課題でも,先延ばしをせずに早めに課題に取り組み始めると言えるだろう。古屋(2017)でも,学業遅延傾向に及ぼす勤勉性の圧倒的な影響が示されており、大学生における学業遅延傾向の個人差は,勤勉性の程度の違いによるものであると言えると示されている。本研究結果は古屋(2017)に沿うものであったため,先延ばし意識や課題着手日の早さの個人差は,Big5性格特性の中でも勤勉性の程度の違いによって変わるのだと推察できる。
協調性からは先延ばし意識特性尺度の各下位尺度いずれにもパスが引かれなかったが,課題着手日に関する質問の「条件7(A:難しい,B:興味なし,C:80%)」に対して,直接効果が示された。よって,一部の課題において先延ばしを行いづらいと考えられるため,仮説5は一部支持された。しかし,協調性の高さは周りの人と協働したり,共感力が高かったり,他者のために尽くすことを好んだりする傾向があるため,今回示したレポート課題よりも,グループでのプレゼンやグループでの課題の場合においてより先延ばしを行わず積極的に取り組むのではないかと考えられる。
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