1.はじめに
近年,我が国における小学校の不登校児童の増加が問題となっている。文部科学省令和3年度「児童生徒の問題行動・不登校生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」によると,不登校児童生徒数は9年連続で増加し,過去最多となっている。また不登校の要因の1位は本人に係る状況の「無気力,不安」が49.7%である。学校に係る状況の中では「教職員との関係をめぐる問題」は2位で1.9%である。江上・佐藤(2016)によると,児童期の子どもにとって,教師の存在は学校での適応や,学習の動機づけにおいても大きなものである。不登校の要因である「教職員との関係をめぐる問題」はもちろん,この子どもの「無気力・不安」の問題に対して,教師が子どもへよい関わりをすることで改善の可能性があると考えられる。余川(2020)も小学校において教師がいかに児童と関わるかは,不登校の予防において重要であり,友人と良好な関係を築くことができる学級づくりも不登校の予防において重要であると述べている。
教師と子どもに対して毎日の学校生活で,授業を行うだけでなく生活指導を行ったり休み時間に一緒に遊んだりなど様々な関わりがある。「教師関係」において,教師の日常生活における子どもたちへのポジティブな関わりとして,「ほめること」が挙げられる。教育雑誌にも教師によるほめについての特集が掲載される(例えばLICHT 第3号)など一般的に「教師のほめ」は大切にされており,渡邊・藤井(2009)も教師からの賞賛が子ども自身,また友人関係,学習,教師との関係,学校全体に影響を及ぼしていており教師行動が重要であると示唆している。子どもたちにとって教師は重要な他者であり,その重要な他者からのほめられ経験が子どもの学校生活への適応感へ様々な影響があると考えられている。古市(1997)は小学生の学校生活の楽しさとその規定要因の検討を行い,その一つが小学生では級友関係,教師関係が学校生活の楽しさに影響を及ぼすことを示唆した。本研究ではその中の「教師関係」として子どもの学校適応感に注目する。
ほめられるという体験を日常的に経験することは多いが,子どもにとっては特に重要な意味を持つと青木(2005)は述べている。高崎(2001)や岸・澤邊・野嶋(2007)など様々な先行研究からも,児童期において教師の言語的なフィードバックが子どもの学習意欲に作用することがわかっている。また,他者からほめられることは,自分が認められることであり,大きな自信になるので必要であると考えられる。
さらに,現在の認識として,本研究では幸せへの動機づけを用いる。幸せへの動機づけとは,個人の日常生活における動機づけのことであり,現在において,何を目的として行動しているかを見ることができると考えたため,本研究において取り扱うこととする。幸せへの動機づけに関する研究の一つとして,若者の将来や現在に対する価値観との関連を見た南(2015)の研究がある。南(2015)は,若者の将来や今に対する価値観と幸せへの動機づけとの関連を明らかにしている。現在や未来への価値観との関連があるのであれば,過去のとらえ方とも関連があることが考えられる。
本研究は学校生活の楽しさの様々な規定要因から特に教師と子どもの関係に着目し,具体的な学校生活場面においての教師からのほめられ経験が子どもの学校適応に与える影響について検討する。
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