1.はじめに
私たちの生活には「かわいい」という言葉があふれている。赤ちゃんや幼い子どもを見かけたとき,散歩している犬に出会ったとき。若者の間では,友人同士で持ち物や服装などをほめるときに「かわいい」と使うことが多い。
メディアや商品にも「かわいい」は使われる。テレビや動画投稿サイトでは「かわいい」動物動画集などがたびたび放送・投稿される。女性向けファッション誌では「大人かわいい」ファッションや「可愛い顔になれる」メイクなどの特集がされている。また,企業や地方自治体等はかわいい印象のキャラクターを制作し,知名度や好感度の向上,各地域の特産品や名所などのアピールに用いることも多い。このような「かわいい」は日本独特の文化であり,日本を代表するポップカルチャーである。近年は日本だけでなく海外からも脚光をあびており,ローマ字表記“kawaii”のまま世界的に通用する語になっている(石田,2012)。
このように「かわいい」が広く使われる理由は何であろうか。何か「かわいい」による効用があると考える。日常での会話で「かわいい」という言葉を発するときの感情は,不快な気持ちではなく,親しみを感じるような,ポジティブな温かい気持ちではないだろうか。また,「かわいい」と発すると,自然と笑顔が出ることもあり,緊張が緩む感じがする。そして「かわいい」を聞いた人もつられて笑顔になり,その場の雰囲気が和むことがある。このように「かわいい」によって笑顔やポジティブ感情が引き起こされることで,人と人のコミュニケーションに活発さを生むような機能を果たしているからこそ,「かわいい」が広く用いられているのではないだろうか。
したがって本研究では「かわいい」をテーマに,会話場面における「かわいい」感情の影響を検討する。
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