考察


1.音楽演奏活動を行う動機と自己成長について
 
まず、そもそも音楽演奏活動をしている人は、どういう動機でそれをしているのか動機づけスタイル尺度をもとに検討した結果、先行研究と同様の「充足感」「向上心」「取入れ的調整」「同一化的調整」の4因子による説明が可能ということが明らかになった。すなわち、音楽演奏活動を通して心が満たされるということ、音楽演奏活動への前向きな気持ち、音楽演奏活動を通して自分の能力を高めたいといったこと、また一方で、音楽演奏活動に対して義務感のようなことや、音楽をやる仲間との関係のことといったことが動機であると考えることができる。継続的に音楽演奏活動をしている人の意識について、ある程度明確になったと考えられる。
 
次に、音楽演奏活動をすることにおいて自己の成長というものを感じることができるのかどうか、自己成長感尺度を用いて検討した結果、各項目の平均値も総じて高く、他者とのつながりを認識できたり、自己の成長を通しての自分への信頼感を得ることができたという結果であった。音楽を演奏することで、総じて心理的なプラスの影響を及ぼしていることが明らかになった。もとより、そのような動機が希薄であったり、自己成長と結び付けることがない場合は音楽の演奏活動を続けている可能性は低いわけで、今回のこれらの結果については、音楽演奏活動を継続的に行っている回答者がサンプルになっているために出てきた結果とも言えるであろう。
 


2.音楽演奏活動中の雰囲気と主観的幸福感について

音楽演奏活動をしている人はどのような雰囲気で活動をしているのか演奏中の雰囲気尺度をもとに検討した結果、各項目の平均値も高く、良い雰囲気で楽しく演奏をしていて、周りの人と1つの音楽を作っている気持ちになっているという結果であった。音楽を演奏することは、心理的にプラスの影響を及ぼしていることが明らかになった。また、複数の人間で音楽演奏活動をする場合においては、音楽を共に作り上げることを通して他者と心を1つにすることができており、その結果楽しんで活動をすることができていると言えるだろう。

次に、音楽演奏活動をしている人たちはどれほど幸福感を味わうことができているのか主観的幸福感尺度をもとに検討した結果、音楽演奏活動に対して前向きな気持ちを抱いているという結果であった。音楽演奏活動が面白く、それを通して幸せを感じていることが明らかになった。一方で、音楽演奏活動を通して自信をつけることができていると感じている人は少なかった。質問項目の中に「危機的な状況(人生を狂わせるようなこと)に出会ったとき,自分が勇気を持ってそれに立ち向かって解決していけるという自信がありますか。」という音楽演奏活動でつけたと想定される自信では対処できないようなスケールの問題について問うものもあった。そのため、自信に関する項目は平均的に低い結果となってしまったと考えられる。また、音楽演奏活動を通して幸福感や達成感を味わっているという人も少なかった。前述した自信と同様に「自分が人類という大きな家族の一員だということに喜びを感じることがありますか。」というスケールの大きい質問項目があった。音楽演奏活動では、人類の一員ということに喜びを感じるような瞬間はあまりないと考えられる。そして、「これまでどの程度成功したり出世したと感じていますか。」という質問項目についても、今回の調査の回答者は大学生が多かったことから、当てはまる人が少なかったと考えられる。心理的安寧を問う尺度については、再検討をする必要があるだろう。


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