考察


3.音楽演奏活動を通した人間的成長について
 
音楽演奏活動を通した人間的成長を検討するために、人間的成長を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果、「自己信頼感」に対して「取入れ的調整」から有意な負の影響が見られたこと、また「他者つながり感」に対して「同一化的調整」から有意な正の影響が見られたことから、自分のために音楽演奏活動を行っている人ほど、音楽演奏活動を通して人間的に成長していることが分かった。

したがって、「前向きに音楽演奏活動に取り組んでいる人ほど、人間的成長の程度や、心理的安寧の効果が大きい。」という仮説1は支持された。これは、内山(2016)の、表現活動で人間的に成長することができるという結果と一致する。今回の調査対象者においては音楽演奏活動の活動形態は様々であったが、中でも部活動やサークル活動での活動が多く、そこでは他者と関わりながら音楽演奏活動を行っている。また、趣味や習い事で活動を行っている場合であっても、合唱団に所属したり、ピアノやエレクトーンなどの楽器で連弾をしている人もいるため、音楽演奏活動の中で他者と関わる場面は多いと考えられる。岡本・今井(2017)によると、「表現する力」を身につけていく過程では、他者の存在が大きく影響を及ぼしているという。したがって、多くの他者と関わりながら活動を行うことは、人間的な成長に繋がっていると考えられる。

また、他者と協力しながらの音楽演奏活動では、話し合いをしたり意見を交わしたりする場面が多々ある。このような他者との関わりの中で、コミュニケーション能力や他者を思いやる力をつけていくことができ、また、自分を見つめ直すことにもつながっていると考えられる。そのため、他者と関わりながら活動を行うことは人間的成長に大いに影響を及ぼしていると言えるだろう。

次に、仮説2の「活動年数が長いほど、人間的成長の程度が大きい。」については支持されなかった。今回のweb調査で得られた回答は、活動年数が10年以下の人が過半数であった。活動年数の平均値は7.5年であり、「活動年数が長い」ということでもない状況で、そもそも「活動年数が長い人」のデータが不十分であったと考えられる。今回の調査では回答者のほとんどが大学生であったため、大学入学をきっかけに、サークルや部活動を通して音楽演奏活動を始めた人がいたことが挙げられる。また、音楽演奏活動を以前はしていたが、現在は活動をしていないという人も調査対象としたため、長期間継続的に音楽演奏活動をしている人のデータが少なくなってしまったと考えられる。

音楽演奏活動を長期間継続することにおける人間的成長というのは、どのくらいの長さを続けていくと成長となるのか、きれいな比例関係にあるとは考えにくいが、今回の大学生の回答者が卒業後も音楽演奏活動を続けていく場合においては、長い人生の中での人間的成長に資する一つの要素となり得るものと考えている。
 

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