考察


4.音楽演奏活動を通した心理的安寧について

音楽演奏活動を通した心理的安寧を検討するために、心理的安寧を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果、「演奏中の雰囲気」に対して「充足感」、「同一化的調整」から有意な正の影響が見られ、「取入れ的調整」から有意な負の影響が見られたこと、また「音楽演奏活動に対する前向きな気持ち」に対して「充足感」から有意な正の影響が見られ、「取入れ的調整」から有意な負の影響が見られたこと、また「幸福感・達成感」に対して「同一化的調整」から有意な正の影響が見られ、「取入れ的調整」から有意な負の影響が見られたことから、自分のために音楽演奏活動を行っている人ほど、音楽演奏活動を通した心理的安寧の効果を得ていることが分かった。

したがって、「前向きに音楽演奏活動に取り組んでいる人ほど、人間的成長の程度や、心理的安寧の効果が大きい。」という仮説1は支持された。これは、山脇(2013)の、表現活動を通してストレスを軽減することが出来るという結果と一致する。また、青戸ら(2019)の、音楽聴取によりリラックス効果が高まるという結果から、音楽演奏活動だけではなく、音楽そのものにリラックス効果があると言える。音楽演奏活動を行い、音楽に触れてそのリラックス効果を受けていることから、様々な方面から影響を受けて、最終的に音楽演奏活動を通して心理的安寧の効果を得ていると考えられる。

音楽と心理的安寧との関係については、音楽視聴の立場からの検討が多いが、音楽を演奏する側の立場からの検討においても効果があるということが明らかになった。もちろん、自分で演奏することで自分自身もその演奏を耳から聞いているわけであるから、演奏と同時に音楽視聴をしているわけであるが、多くの人は自ら演奏をする際にはどのように演奏するかということを考えながら演奏していると推測され、その時点で、上手にとか、きれいにとか、音楽の曲想に合わせた感情的な側面に大きな意識が行っていることが考えられる。気持ち的に音楽を演奏する気にならない時は、おそらく楽器を手に取るようなことはしないわけであり、穏やかな気持ちである時に演奏して、さらに穏やかな気持ちになるという良い循環が生まれているものと考えられる。

また、「音楽演奏活動に対する前向きな気持ち」にのみ、「継続年数」から有意な正の影響が見られたことから、活動期間が長い人ほど、音楽演奏活動を通して得られる心理的安寧の効果が大きいということが分かった。音楽を演奏することで気持ちが穏やかになることを長年の経験から知っているということと思われる。
 

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