考察
5.打ち込み度の違いによる人間的成長や心理的安寧
最後に、音楽演奏活動を通した人間的成長や心理的安寧について検討するために、人間的成長と心理的安寧を従属変数とした重回帰分析を行った。その結果、「活動への打ち込み度が高い人ほど、人間的成長の程度や、心理的安寧の効果が大きい。」という仮説3は支持されなかった。
音楽演奏活動を始めた理由の中には、「親の圧力」、「親の勧め」など自分の意思で始めたわけではなく、習い事としての演奏活動であり、そういう意味での打ち込みの程度は高かったという人が含まれていた。これらの人は、「打ち込み」という意味では確かに熱心に音楽演奏活動をしていたと考えられるが、その音楽演奏活動が自分自身のためにという意識はおそらく希薄であったと考えられる。やっていた音楽に対するコミットメントの仕方は、自らの意思で始めた人と比べると低い可能性がある。
いずれにしても、調査対象者に打ち込み度を尋ねた際に、「打ち込み」の意味をどのように理解し解釈して回答していたかがやや不明なところがあり、そのことがこの結果をもたらしていると考えられる。この点については大きな課題と考えている。
6.個人と集団による人間的成長と心理的安寧の差
本研究では、音楽演奏活動をする際に、個人でやっているのか集団でやっているのか尋ねた。音楽を演奏する機会として、自宅等で個人で音楽を演奏する場合と、部活動やサークル等で複数人数で音楽を演奏するときとでは心理的状態は少し異なると予想されるし、とくに部活動で音楽をやっている人は、音楽演奏活動は自ずと協同的な作業となり、一緒に音楽を奏でることや合わせることに注力していると考えられる。
そこで、個人(1人)と集団(2人以上の複数)で、人間的成長と心理的安寧に差があるのか検証したが、その結果、「他者つながり感」、「演奏中の雰囲気」の2つの下位尺度において、集団での演奏活動の方が個人での演奏活動よりも、有意に人間的成長と心理的安寧の効果を得ていた。
つまり、音楽を複数で演奏する場合においては、個人で演奏する場合に比べて、他者との心理的交流がそこに大きく存在していると考えられる。たとえば、それぞれの楽器のパートを演奏することで一つの楽曲を作り上げていく面白さなど、複数で演奏することで一つの楽曲を作り上げていく面白さなど、複数で演奏することの楽しさや面白さが十分にあると考えられる。一つの楽曲を演奏するために練習を繰り返すなかで他者とのつながりが強くなり、上手く演奏できたときの充実感は相当高いものがあると考えられる。音楽を複数でやることの意味や意義がここにあると考えられる。
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