1.はじめに


 近年,SNSの急速な普及により現代の青年における友人関係が大きく変化している。内閣府(2022) が行った青少年のインターネット利用実態調査によると,青少年(10〜17歳)のインターネット使用率は97.7%であり,利用機器としてはスマートフォンが68.8%である。スマートフォンの普及に加え,Twitter(2006年),Instagram(2010年),LINE(2011年)と新たなコミュニケーションツールが提供されることによって,SNSを介した友人関係が注目されている。
 
 従来から,青年期にとって友人と良好な関係を築くことは重要な役割を持つとされ,これまで研究されている。落合・佐藤(1996) は,青年期は心理的離乳の時期であり心を打ち明ける相手は親や教師ではなくなっていくと述べ,「大人には頼りたくない」という気持ちを持ちつつも,自分に自信が持てないという不安定な状態である青年にとって,友人は大きな支えとなると主張した。粕谷(2013) は,友人関係の質的側面をとらえる側面として「親しい友人について知っていること」に着目し,中学生の友人関係と学校適応の関連について考察した。親しい友人について知っている項目が多いほど,元気が出たり落ち着いたり,悩みを打ち明けられるような良好な友人関係を築くことができており,学校適応感もよいと結論付けた。また,男子においては異性関係,女子においては2人だけの秘密の共有が学校適応感に強い影響力を与えることを示唆した。以上のように親密な友人を持つことは,青年期にとって大きな課題である。

 友人との関係を発展させ,親密な関係を築くために,自己開示は無くてはならない要素である。田中・下田(2013)は,中学生において“友人に対して抱く様々な感情”は学校不適応を引き起こす原因となると主張し,友人に対する感情と自己開示,本来感との関係について検討を行った。女子において,友人グループを居場所として捉えている親密な関係は,自己開示が行われやすく,自己開示が行われることで友人への信頼を高め,親密さが増し,さらに内面的な自己開示が促進されるという循環が起きていると推察した。また,小野寺・河村(2002)は,中学生の友人関係において友人に対しての自己開示程度が高いほど,学校適応感が高い傾向にあると指摘した。
 
 しかし,友人に対して自身の態度や意見,好みや趣味,金銭関係,性格,身体条件などを率直に表明することは,友人との対立葛藤が生じ,不必要な劣等意識や優等意識を起こさせる可能性があり,それを避けているといった指摘もされており(千石,1991),相手への好意度や相手からの評価が下がることを恐れ,友人との表面的なつきあいが見られるようになってきた。吉岡(2001)によると,中学生・高校生は,友人に自身を理解してほしい,なんでも話し合い友人と分かり合いたいという「信頼感のある関係」を求めつつも,実際は「他者からどう評価されるか」という意識が生まれ,信頼感のある関係を築けていないと考えられている。このように,友人との関係を発展させたいと思いつつも相手からの否定的な評価を恐れ,自身の内面について打ち明けられない表面的な友人関係が問題視されている。
 
 友人関係が表面的になってきていることに加え,SNSの普及によって現代の友人関係は多様化している。SNSやブログを利用していつでもどこでも遠く離れた所に住む会ったことのない友人と気軽にコミュニケーションを取ることが可能になった(渡辺・山下,2009)。その為,現代の友人との関係をとらえるにあたって,対面状況の友人関係のみならず,SNS上でのみ関わる匿名性の高い友人との関係について検討する必要がある。
 
 SNS上で匿名性の高い他者と交流することは,危険性が高いという指摘がしばしばなされる。渋井(2019)は,出会い系サイトやSNSによる売買春,ネットストーカーや仲間を集った集団自殺,いじめや誹謗中傷,危険ドラッグの売買などSNSにはアンダーグラウンドな世界が広がっているとして,平成に起きた代表的なネット犯罪をまとめ,当事者への取材を行った。SNSの危険な側面について考察しつつ,メディア自体が悪であるわけではなく,むしろ生きづらさを抱く人たちの居場所になる可能性があると主張した。SNS上のコミュニティによってできた友人とは弱い関係しかない(大竹・植竹・岡・篠沢・櫻井,2014)とされており,一般にSNS上の友人関係は現実の友人に比べ希薄であることが指摘されているが,SNS上では関係が初期の段階から深い自己開示が行われており,親密化を促進するという報告もされている(遠藤・吉田・安念,1998)。
 
 上東・坂部・山崎(2016)は,SNS上での交流は,自身とは異なる環境や立場,価値観を持つ見知らぬ人と関わる機会もあり,そうした他者を理解しようとすることにより他者感情を理解しようとする力が養われると考察した。また,SNS上での共感力が高い人ほど現実の共感力も高く,SNS使用から現実へのポジティブな影響がみられた。
 
 このようにSNS上の希薄な友人関係が故の利点があるのではないかと考え,本研究では対面状況の友人関係とSNS上の友人関係の質的比較を行い,自己開示との関係に着目し,孤独感に与える影響について検討を行う。



next