2.友人関係
2-1.現代の友人関係の課題
近年,青年期における友人関係の希薄化が問題視されている。青年期における友人関係について岡田(1999)は,これまでの同性の親しい友人との関わりを特徴とする友人関係を「伝統的青年観」と称し,現代の友人関係について研究を行った。青年自身は,理想として内面的関係を求め「伝統的青年観」に近い自己認知を持つ一方で,実際は深刻さを避け,楽しさだけを求めるような関係を築いていることが明らかになった。栗原(1989)は,現実の友人関係は,家族にも話せないような相談をし,互いに意見をぶつけ合うアイデンティティの形成にかかわる親密な友人関係と,自身も他者も傷つけあうことを恐れ,群れることによる安心感から成り立つような友人関係の二極に分かれていることを指摘した。千石(1991)によると,かつて親友は「心の友であり,なんでも打ち明けて悩み,人生について語るもの」であったが,現代の青年にとっての親友は「プライバシーを除いて」なんでも話し,相互の楽しみの手段としての存在に変わったと述べ,対立を避け相手を傷つけないように気を配る相手との距離を置いた表面的な友人関係を築いていると主張した。
このように,これまでの青年期にみられる伝統的な友人関係である「同性の親しい友人との親密な関わり」とは性質が異なり,表面的な楽しさや表面的なつながりを求める現代的な友人関係が問題視されている。
2-2.友人関係の質的側面
従来から,青年にとって友人関係は適応感などに大きな影響を及ぼすなど,重要な役割を持つと捉えられ,様々な研究が行われてきた。大久保(2005)は中高生を対象にし,学校生活の要因(友人との関係,教師との関係,学業)が学校適応感へ及ぼす影響について検討した。どちらの学校段階においても「友人との関係」は学校への適応感の因子「居心地の良さ」「課題・目的の存在」「被信頼・受容感」「劣等感の無さ」のいずれの側面においても強い影響を与えることが明らかになった。石本・久川・齊藤・上長・則定・日潟・森口(2009)は,友人との心理的距離の遠さと同調性の高さを併せ持つ現代の青年における友人関係の在り方と適応感との関連を検討した。石本ら(2009)は,心理的距離と同調性の2つの観点から青年期の友人関係を同調性が高く心理的距離の遠い「表面群」,同調性が高く心理的距離の近い「密着群」,同調性が低く心理的距離の遠い「孤立群」,同調性が低く心理的距離の近い「尊重群」の4つのスタイルに分類し,友人関係スタイルが学校適応感と心理的適応感に及ぼす影響について検討を行った。その結果,心理的距離が近く同調性の低い友人関係である「尊重群」では,学校適応もよく心理的適応も高いことが明らかになった。一方で,友人関係スタイルのうち現代の友人関係の特徴を持つ友人との心理的距離が遠く同調性の高い「表面群」では学校段階を問わず心理的適応感が悪く,高校生では,学校適応感にも負の影響があることを明らかにし,友人に対して距離を取りながらも同調するありのままではない希薄な友人関係は,適応感に望ましくないことを実証した。石本ら(2009)は,青年期において友人関係が学校適応感や心理的適応感に及ぼす影響が男子より女子の方が大きいことに着目し,対象を中学生,高校生の女子に限定したため,男子の現代的な友人関係については検討が行われていない。本研究では男子にも着目し,検討を行う。
←back/next→