3.SNS上の友人関係の特徴


 近年,SNSが発展したことにより,友人関係の在り方に変化がみられるようになった。SNSとは,総務省の定義によると「ソーシャルネットワーキングサービス(Social Networking Service)の略で,登録された利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービスのこと」であり,友人同士や同じ趣味を持つ人同士,近隣地域の住民が集まる,ある程度閉ざされた空間で密接なコミュニケーションが可能であるとされている。株式会社ICT総研(2022)のSNS利用動向に関する調査によると,インターネットユーザーにおける利用率が高いのはLINE 79.5%,YouTube 62.0%,Twitter 55.9%,Instagram 52.9%,Facebook 24.6%,TikTok 19.7%であり,これらのSNSの利用動機として,「仕事や趣味などの情報収集目的」「知人同士の近況報告」が挙げられ,これらについで「SNSを通じて,人とつながっていたい」という理由が挙げられた。 栗原(1989)は,1985年をオンライン・コミュニティ元年と称し,若者たちは血縁など従来のコミュニティとは異なるにも関わらず,自身の楽しみからコミュニケーション自体を目的としたネットワークを形成していると述べている。このように,現実の人間関係以外で,他者とコミュニケーションをとるための場所としてSNSが機能しているといえる。

 SNS上における他者との関わり方についての研究が行われるようになってきたが,SNSの利用が与える影響についての見解は,まだ一貫した結論が下されていない。 赤坂・坂元(2008)は,携帯電話の使用が友人関係に及ぼす影響について調査を行った。 中学生においては,インターネット使用量が高いほど密着性が低下し,友人関係の希薄さを促進していることを示唆している。インターネットにより,サイトを閲覧するなど自分一人で楽しむ機会が増えた結果,友人との密着性が低下していると考察した。また,友人と密着したいと感じた際にSNS上で友人とやり取りをすることにより,密着したいという欲求が満たされる可能性を指摘した。

 杉浦・高橋・杉浦(2009)は,SNS上で出会った友人を多く持つ人は,日常の友人の数も多く,対面状況の友人関係の希薄化には至らないと主張し,SNS上の友人を作ることは対面状況の友人関係の代用ではなく,積極的な友人関係を持つことを目的としていると考察した。また対面状況とSNS上の友人へ期待するものが異なると指摘し,対面状況の友人には心のよりどころになるような深く親密な人間関係を期待し,SNS上の友人には悩みなどの話を聞いてもらうという相談相手・話し相手としての役割を求めていると結論付けた。

 安藤・高比良・坂元(2005)は,中学生を対象にインターネット使用が孤独感に与える影響についてツール別及び使用目的別にそれぞれ検討を行った。その結果,Eメールの使用量が多いほど孤独感が低減することを明らかにしている。 このように先行研究では,SNS上の友人関係は表面的であるという指摘がされ,SNS上のコミュニケーションが与える影響については,ポジティブな側面とネガティブな側面が混在している。また,杉浦・高橋・杉浦(2009)は,SNS上の交流は対面状況の友人関係の代替ではないと主張したが,上東・坂部・山崎(2016)はSNS上で現実で対面する機会の多い友人と交流することは,友人の近況や意外な側面を新たに知ることになり,関係を強めるとし,既存の友人関係をさらに強固にする役割があるとした。 以上より,ひとえに「SNS上の交流」といっても,対面状況の友人とのSNS上の交流,顔も本名も知らない匿名性の高いSNS上だけの友人に焦点を当てるのか,SNS上の交流の頻度や,やりとりをする人数に着目するのかなど様々な研究がみられる。中でも,SNS上だけでしか関わりのない匿名性の高い他者との関係性に目をむけた研究は少ない。

 渡辺・山下(2009)は,SNSは友人を作る一つの場であるとして,大変親しくなったインターネットでできた知り合いである「ネット友人」と,実際に学校などであって対面で話をしている友人「リアル友人」の違いについて研究を行った。その結果,SNS上に友人がおり,その友人に会ったことのある男性の孤独感は,インターネット上に友人がいるが実際に会ったことのない人より孤独感が有意に高く,インターネット上に友人がいる女性の方が,リアルにしか友人がいない女性より社会的スキルが有意に高いと明らかにした。

 本研究では,渡辺・山下(2009)の定義を参考に,実際に会ったことはなくSNS上で1対1のやりとりが多い友人を「SNS上の友人」,実際に学校などで会って対面で話をしている友人を「対面状況の友人」と定義し,現代の中学生が前述の2者とどのような関係を築いているかという質的側面に着目し検討を行う。



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