1.はじめに


 コントを鑑賞して笑った経験があるだろう。コント鑑賞は演者とのリアルタイムのコミュニケーションに値し、「ユーモア」を感じ取ることで「笑い」という反応が起こる。コントにおける「ユーモア」は、演者の言動によって発生する。観客は、演者が扮するキャラクターの心情を汲み取り、自分がその人物であるかのような感覚になり、演者が演じるキャラクターの立場になって見ている。つまり、コントを見る観客はキャラクターに共感していると考えられる。
 
 別役(2003)は、「演劇というのは、舞台上に立っている役者に観客が共振したり共鳴したりすることによって体験できる。役者が言った言葉を理解するのではない。たとえば役者が「悲しい」と言った場合は、悲しいという言葉を理解するわけではなくて、その役者が感じた「悲しさみたいなもの」を観客が同時に感じ取ることによって演劇となる。」と述べる。また、小林(2014)は、表現者には「自分の発言や行動を相手がどう感じるか」を察する感覚が必要であることから、表現力は言い換えればコミュニケーション能力であると述べる。このように、表現者側は一方向的な発信を目的としているのではなく、観客との双方向的な意思伝達を狙いとしていることがわかる。

 しかし、コントを観る側からすると、おもしろいと思う作品もあれば、おもしろいと思えない作品もあるだろう。また、他の人がおもしろいと評価した作品に対して、自分はおもしろいと思えない場合もあり得る。この差異について筆者は、個人に内在するユーモア志向が関係していると考える。さらに、演者の示した心情を感じ取るという点から、個人の状態共感との関連がみられると想定する。
 
 したがって、コント鑑賞を通して他者に共感しユーモアを感受する経験に基づいて、個人に内在するユーモア志向と状態共感との関係を明らかにすることが、本研究の目的である。



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