1. はじめに
私たちにとって「自己」とは,切っても切り離せない関係であり,私たちは,日常生活の中で,自己に対して意識を向けることが多くある。例えば,何かに悩んでいるときに「自分は今どういう気持ちであるのだろう」と考えたり,「自分は,本当は何をしたいのだろう」と自分の行動や将来について考えたりするといった外からは見えない自己の内面に意識を向けることがある。一方で,他者の目に映るときに「人の目に自分はどのように映っているのだろう」と思ったり,他者と話しているときに「自分の発言を相手はどのように受け取ったのだろう」と考えたりするといった外から見える自己の外面に意識を向けることもある。
また,他者といるときの自己というのは少なからず変化があると考えられる。家族といる時の自分,友人といる時の自分,先輩や目上の人といるときの自分というのは,全く同じ「自分」ではないだろう。また,友人といるときの自分という場面を絞っても,一緒にいる友人や場面によって自己が変化するということも少なくない。自己の変化に関して,佐久間(2002) は,大学生女子を対象に質問紙調査をおこなったところ,大学生女子の約90%が関係に応じて自己が変化すると考えていることを明らかにしている。友人関係のなかの自己の使い分けに関して,浅野(2022) は,友人関係の使い分けは,さまざまな場面への敏感な対応が,それによって生じる場面ごとの自己のあり方にずれを生じさせることによって自己を多元化させていくと述べている。青年期の対人関係では,「人にどのように思われるのか気になる」「集団に溶け込めない」といった悩みを持ちやすく,より自己が変化しやすいのではないかと考えられる。「できるだけ仲間と同じように行動したい」,「自分の考えや意見を言うのを抑えておこう」といった友人に同調するような考え方も持つ場面が多く,対人関係に敏感な時期であるといえる。青年期のなかでも,特に大学生は,学部の友人,サークルや部活の友人,バイト先の友人,地元の友人など,友人の幅も広く交友関係が広いといえる。様々な交友関係があるなかで,ある友人といるときは明るく楽しいムードメーカー的な自分でいるが,別の友人といるときは静かに聞き役に回ることがあるなど,常に誰に対しても全く同一の自分でいるという人は多くはないだろう。このように,少なからず自己と他者との対人関係の間には,何かしらの関連があるのではないかと考えられる。
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