考察
4. 自意識尺度と変化動機尺度が同調行動尺度に与える影響について
仮説Eの検討のため,自意識尺度と変化動機尺度を独立変数,同調行動尺度を従属変数とした重回帰分析をおこなった。
まず,自意識尺度から同調行動尺度への影響については,自意識尺度の「私的自意識」から同調行動尺度の「仲間への同調」に対して有意な負の影響がみられ,自意識尺度の「公的自意識」から同調行動尺度の「仲間への同調」,「自己犠牲・追従」に対して有意な正の影響がみられた。「私的自意識」から「仲間への同調」に対して有意な負の影響がみられた理由としては,私的自意識は,自己の内面的側面に注意を向けやすい傾向であるため,自分の意見とは異なる意見や態度,行動を周囲から求められたとしても,それに合わせることなく,自己の考えを優先するためではないかと考えられる。「公的自意識」から「仲間への同調」,「自己犠牲・追従」に対して有意な正の影響がみられたことから,他者が観察しうる自己の外面に注意を向ける程度が大きい人ほど,積極的に友人と同じ行動をとろうとしたり,自分を抑えて相手と同じことをしたりしたいということに関連があると示唆された。他者が見ている自己に注意を向ける程度が大きいということは,「周りから仲間外れにされたくない」「周りから嫌な人と思われたくない」という気持ちが生じやすくなると予想されるため,自分の意思より仲間と同じ行動をとることを重要視しているのではないかと考えられる。
次に,変化動機尺度から同調行動尺度への影響についてみていく。変化動機尺度の「関係維持」から同調行動尺度の「自己犠牲・追従」に対して有意な正の影響がみられた。変化動機尺度の「演技隠蔽」から同調行動尺度の「仲間への同調」に対して有意な正の影響がみられた。「関係維持」から「自己犠牲・追従」に対して有意な正の影響がみられた理由として,相手とうまくやっていきたい,関係を壊したくないといった関係維持願望から,「自分の本当の気持ちを話したら嫌われてしまうのではないか」,「自分は納得していないが,同じことをしないと仲間外れにされるのではないか」という思いが強く,自分を犠牲にしてでも仲間と同じ行動をとる傾向があるのではないかと考えられる。また,「関係維持」に含まれる,相手を傷つけたくないなどの配慮から,自分より相手を優先して友人に合わせようとすることも関連していると考えられる。「演技隠蔽」から「仲間への同調」に対して有意な正の影響がみられた理由としては,自分をよく見せたいという思いや,嫌いなところや弱いところを隠したいという思いから意識的に演じてでも,自分だけ周りと異なることが嫌だという意識から,積極的に友人と同じ行動がとりたいという思いが生じているからと考えられる。
以上のような結果から,仮説E『自意識と変化動機は,同調行動に関連性がみられると考えられる。』は支持された。
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