考察


 3. 性差に関して

 仮説Dの検討のため,性差を求める各下位尺度のt検定をおこなった。

 t検定の結果より,「公的自意識」,「関係維持」,「自然・無意識」,「自己犠牲・追従」で有意差がみられ,男性より女性の方が高い平均値を示した。この結果から,男性より女性の方が,他者が観察しうる自己の外面に注意を向ける程度が大きく,なんとなく自然に変化する場合もありながら,相手との関係を重視しており,自分を抑えてでも友人と同じ行動をしたいということが示唆された。女性は男性よりも「友人にどう思われているか」を強く意識しているため,自分の考えや意見よりも,友人がとっている行動と同じ行動をする傾向があるのではないかと考えられる。

 仮説Dについては,同調行動尺度の「仲間への同調」は有意な差が見られなかったが,「自己犠牲・追従」においては有意な差が見られ,男性より女性の方が「自己犠牲・追従」の平均値が大きいことが示された。このことから,仮説D『女性は男性よりも仲間意識が強く,同調行動の「仲間への同調」得点と「自己犠牲・追従」得点が大きくなると考えられる。』について,『女性は男性よりも,同調行動の「自己犠牲・追従」得点が大きくなると考えられる。』の部分においては支持された。榎本(1999)は,『安定感のみを持つことができる友人関係は,女子は他者を入れない固く親密な絆を友人との間で築くことである』,『女子は感情的側面において,交流,共有を意識した「友人との信頼感」や「友人にどう思われているか」について男子より感じている』と述べている。このことから,女性は,自分の意見や行動を抑えてでも,相手にどう思われているかを意識し,相手と同じことをして,固く親密な絆を友人と築きたいという考えを持っているのではないかと考えられる。

 一方で,同調行動尺度の「仲間への同調」においては,有意な性差をみることができなかった。よって,仮説Dの『女性は男性よりも,同調行動の「仲間への同調」得点が大きくなると考えられる。』の部分においては,支持されなかった。同調行動尺度の下位尺度である「仲間への同調」において,有意差を見ることができなかったため,「仲間への同調」の項目ごとのt検定をおこなった。すると,平均値と標準偏差について,以下の項目で有意差がみられた。「52. 親しい友達と同じような格好や行動がしたい」,「45. 友だちとは趣味や好みが一致していてほしい」,「40. 友達に,自分を守ってくれるよう頼むことが多い」の3つである。有意差が出た3つの項目において,全て女性より男性の方が高い平均値を示した。榎本(1999)は,『男子の安定的な感情のみが背景にある活動的側面は,男子は「共有活動」であり,安定感のみを持つことができる友人関係は,男子は遊びを共にすることで築く』,『感情的側面において,男子は「ライバル意識」,「葛藤」を女子より強く感じている』と述べている。これらのことから,男性は,友人関係では共有活動を重視するため,親しい友達と同じような格好や行動がしたい,趣味や好みが一致していてほしいという考えがあるのではないかと考えられる。また,女性よりもライバル意識を強く感じているため,仲の良い友人に,自分を守ってくれるよう頼む傾向があるのではないかと考えられる。



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