考察


2. 自覚している変化程度と変化動機尺度の関連について

 仮説Cの検討のため,自覚している変化程度と変化動機尺度の下位尺度「関係維持」,「自然・無意識」,「演技隠蔽」,「関係の質」の相関係数を求めた。

 その結果,自覚している変化程度と変化動機尺度の「関係維持」,「自然・無意識」,「演技隠蔽」において有意な正の相関が見られた。このことから,仮説C『自覚している変化程度が大きい人ほど,意図的に自分を変化させることが多く,「関係維持」得点や「演技隠蔽」得点が大きくなると考えられる。』は支持された。「関係維持」については,相手との関係を維持するためや,相手を傷つけないように意識的に自己を変化させているため,自覚している変化程度との関連がみられたことが考えられる。また,「演技隠蔽」については,相手によく見られたいという思いなどから,意識的に自己を変化させているという認識が生じるのではないかと考えられる。自覚している変化程度と「自然・無意識」においても関連がみられた理由として,「自然・無意識」は日本文化において特徴的な自然に,無意識に変化するという考えも含まれているため,人と関わっている場では意識せず自然と自己が変化していても,客観的に改めて振り返ると自己が変化していたという認識があり,自覚している変化程度と正の相関がみられたのではないかと考えられる。

 また,自覚している変化程度に及ぼす影響についても調べるため,各下位尺度を独立変数とし,自覚している変化程度を従属変数とした重回帰分析による検討をおこなった結果,「関係維持」と「自然・無意識」から「自覚している変化程度」に対して有意な正の影響がみられた。相関係数の算出の結果と類似した結果となったが,重回帰分析では,「演技・隠蔽」から自覚している変化程度への影響はみられなかった。自覚している変化程度に,特に正の影響を与えているのは,関係維持願望や自己理解願望,相手を傷つけたくないなどの配慮からなる「関係維持」であることが示唆された。



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