1.はじめに
近年,わが国では大学全入化を迎えつつある。令和4年度学校基本調査(文部科学省,2022)によると,国内の大学進学率は56.6%に達し,多様な背景をもつ学生が入学してくるようになった。大学における障害学生の数は年々増加し,学習障害,注意欠如・多動性障害,自閉症等の発達障害の障害学生に対する割合は,平成19年度の2.8%から,令和4年度では20.7%と増加が著しい(日本学生支援機構,2022)。
発達障害のある学生には,その障害特性から様々な適応上の困難さが想定される。発達障害の主症状に由来されるものだけではなく,“生きづらさ”と表現されるような生活全般にわたる多大な困難さを背負う可能性もある。
この実態を受け設置された「障害のある学生の修学支援に関する検討会」の報告(文部科学省,2012),さらに2014年の「障害者の権利に関する条約」の批准によって,発達障害を含めた障害者が平等に高等教育一般の機会を与えられる支援体制を準備することが,大学には求められてきている。しかし,日本の大学における発達障害学生支援の研究の歴史はまだ浅く,学生のニーズに対してどのような対応をすることが合理的な支援であるのかが明らかにされていないため,支援の難しさを感じる大学は多い。
発達障害学生への支援が難しい理由のひとつは,必ずしも診断を前提に進められないことである。
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