注意欠如・多動性障害 ADHD(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)  

2.注意欠如・多動性障害 ADHD(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)


注意欠如・多動性障害はADHD(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)とも言われ,年齢不相応な不注意と多動衝動性に特徴づけられる代表的な神経発達症である(American Psychiatric Association,2013)。

 大学生におけるADHDの確定診断は,発達障害の中でも特に難しいもののひとつである。大学生も含めた青年期以降のADHDの診断基準は曖昧な部分が多い。子どもの頃に診断を受けながら,成人期に診断基準から外れる者,社会生活上で違和感はありながらも自分の特性に気づかず診断を受ける機会のなかったもの,あるいはあえて診断を受けなかった者など,未診断・非診断の潜在的な“かくれた”ADHD学生は一定数在籍することが指摘されている。日本における一般の大学生を対象にした調査でも,不注意と多動性・衝動性に関する自覚の強さは連続的に分布し,臨床域に相当するほどの強い自覚症状を感じている学生が一定数在籍することが確認されている(篠田・高橋,2003;高橋篠田,2001)。


このような現状を踏まえ,遠矢(2002)は,診断の有無に関わらず,ADHDの主症状を認識する人々をスペクトラム(spectrum)として捉え,通常の社会生活を送る人々が抱える心理・行動的困難を明らかにし,心理臨床的手がかりを得ることの必要性を指摘した。また,田中(2012)は,ADHDのある成人への心理的介入を,「個々の特性と障害の特徴を区別せず,本人が認識している日常生活の困難さを一緒に悩み,少しでも良い方向へ向ける努力に基づく行為」と定義し,発達支援の重要性を指摘している。

 しかし,ADHD特性のある大学生がどのような問題を経験し,その後どのように大学生活に適応していくのかというプロセスについての実証的研究はほとんど行われていない。本研究ではADHDの診断の有無に関わらず,ADHD特性の傾向のある大学生に焦点をあてる。

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