3. 大学生のADHD
ADHDの主症状は「不注意」と「多動性・衝動性」であり,行動面で目立つ粗大な「多動」は加齢に伴い軽減していくが,青年期以降も「不注意」や「多動性」の症状は残存しやすく,形を変えながら一生続くものとされる(Achenbach,Howell,McConaughy,&Stranger,1995)。
ADHDの診断歴のある学生,また,セルフレポートで不注意と多動性・衝動性の症状が強い学生は,学業不振や留年,退学などの教育面,ソーシャルスキルの欠如,攻撃性の高さや他者からの拒否への気づきにくさなどの対人面,交通違反やアルコール依存などの社会面,あるいは抑うつ傾向,内的な落ち着きのなさ,自尊心や幸福感の低さなどの情緒面といった,大学生活全般におよぶ複数の問題を抱えがちである。これらの問題は,不注意と多動性・衝動性といった神経生物学的な背景のある個人の特性(Norwalk et al.,2009)があるために,高校までの学習環境と異なる自由度の高い大学生活で新たに顕在化する問題であるという指摘がなされている(Wolf,Simkowitz,&Carlson,2001)。大学生活では,学習や生活,対人関係など様々な面で構造化の程度が低く,大学生にはある程度の自主性,計画性,自己管理が求められる。しかし,ADHDの症状を自覚している大学生は,大学生活に必要な計画性や自己管理,自己抑制など発達的に獲得されるべき種々のスキルの獲得が遅れている。そのため,大学において新たな行動上の問題を引き起こしやすいと考えられている(Barkley&Murphy,2006;Safren,Sprich,Chulvick,&Otto,2004)。
そこで本研究では,不注意と衝動性自覚のある大学生の大学入学から現在までの期間に特に焦点を当てて検討を行う。
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