6. 本研究の目的
以上のことから,本研究では動画視聴を通して視聴者における配信者への心理的距離の認識について明らかにすることを目的とし,配信者への信頼感と視聴者同士のコミュニティ形成に立脚し検討を行う。以下を仮説として設定する。
仮説1:動画配信サイトにおいては,配信者と視聴者におけるコミュニティが形成されている。
仮説2:配信者とやりとりをしている視聴者の方が配信者への心理的距離が近い。
仮説3:配信者と動画配信における視聴者は配信者のコミュニティへの帰属意識が強い。
仮説4:視聴者が配信者に感じている親近感は,いわば「仮想的親近感」である。
仮説の検討のために配信者とのやりとりと尺度を使用した質問紙調査を行う。
仮説1,3で検討する集団のコミットメントを測定する尺度にAllen & Meyer(1990)を翻訳した高橋(1999)を用いる。この尺度は本来会社への忠誠心や思い入れを測る尺度である。しかし,組織へのコミットという観点を軸にしてアレンジされていることがあり大澤(2017)では,この尺度を取り入れてクラスコミットメント尺度を作成していた。他にも会社への帰属意識を測る尺度を参考に他のコミュニティのコミットメントを作成する例は多く見受けられた。
今回対面でのコミュニティに用いる尺度を使用する理由として,前納・岩佐・内田(2012)の同一空間でなくともライブ感覚や同世代の声が電波に乗るシステムによる一体感という対面との疑似的な共通点が挙げられる。ネット上の動画配信は,ラジオほどの公共性がないが,趣味や考えの近い人の声が共有されコメントといったラジオパーソナリティには拾われない声を取り上げられるメディアの1つであるとも言える。そういった動画配信サービスでのコミュニティの特徴を明らかにしていく。
仮説2で検討する視聴者の配信者個人に対する心理的距離を測るために使用する中井(2016)のStudents’ Trust in Schoolmate(以下STS尺度)は,友人関係を測る尺度である。
この尺度を使う理由として,配信者が親友相手にするのと同等の質の自己開示をする点に着目していることが一番に挙げられる。また,コメントを通して直接的にコミュニケーションに双方向性が働いている点にも着目している。
この尺度に加え,やりとりの多さを調べるためにコメントの量やスーパーチャット経験の有無を聞き,群分けをすることで非対面状況でのコミュニケーションの双方向性が親近感にどう影響を与えるか検討を行う。
仮説4を検討するにあたって, 橋(1999)のコミットメント尺度の規範的コミットメントに着目する。水越(2007)によるとネットコミュニティは「制約条件が一旦弱まっている」ため誰もが自由な意思で参加,離脱できるという。つまり規範的コミットメントの項目にある「こうでなければならない」「こうあってはいけない」という対面ではあるべき規範が弱まっていると考えられる。また,離脱の手軽さから継続的コミットメントも弱いと考えられる。そこで今回集団での仮想的親近感については規範的コミットメントと継続的コミットメントの低さに着目する。
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