5.仮想的親近感について


5−1.対面とのネット上のコミュニケーションの疑似的な共通点

 対面とネット上のコミュニケーションには疑似的な共通点も相違点も見られる(Table1参照)。その中でもコミュニケーションが成り立つと感じるための重要な要素として,メディアでは疑似的に1対1の環境が作られていると考えられることが挙げられる。 石田(2003)は, テレビニュースでは,視聴者にとって私的空間が延長したリラックスした雰囲気の仮想空間が構築されていると述べた。また,キャスターが語りかける行為は,視聴者が「私が話しかけられている」感覚を覚え,親近感が生まれる(Scannell,1996:13;藤田,2006,52)。

 また,藤田(2006)はキャスターが頭を下げてあいさつを述べるなど日常会話と同じ行動をとることで日常のコミュニケーションを偽装した対人コミュニケーションを構築しようとしているという。

 しかし,対面とネット上のコミュニケーションは共通点ばかりではない。次節5-2,5-3では3.4節で言及した二つの要素の解離点について検討する。

5−2. 動画配信上のコミュニケーションの双方向性の視点から 

 動画配信上のコミュニケーションと対面上のコミュニケーションとの解離点について,1つ目に挙げられる点が自己開示の不均等さである。V.J.ダーレガ(1999)は,自己開示と人間関係がともに力動的で主体的であるという。話し手は相手とどのくらい仲良くなりたいかの程度によって自己開示するが,聞き手側も話し手が開示することで拒絶・無関心にさらされるリスクのなか開示してくれたことを踏まえて適切な開示であると判断すれば,自分自身の価値を認識し親密な人間関係を築くという。つまり,配信者が自己開示をするほど視聴者は返報性により配信者の自己開示レベルに近い親近性は抱いているといえる。しかし,コミュニケーションをとる手段であるコメントは文字列のみであり,情報量も配信者と同じだけの量・質の返答はしていない。

 逆に,視聴者がいくらコメントで自己開示をしたとしても,配信者に返答をしてもらえるとも限らず,返答してもらうためには課金する必要があるケースもある。また,配信者においては,数多の視聴者の私的な情報に接したところで,各視聴者との個人的な関係がいちいち生まれているわけでもないと考えられる。

 つまり配信者・視聴者共にいくら自己開示をしても,自分と同じだけの返報は帰って来ず,コミュニケーションの双方向性には偏りがあるといえる。

5−3.動画配信上の社会的アイデンティティの視点から

 対面上でのコミュニケーションとの相違点の2つ目に,ネット上のコミュニティの存続の難しさが挙げられる。水越(2007)によると,ネットコミュニティは「制約条件が一旦弱まっている」ため誰もが自由な意思で参加,離脱できるが,「存続が難しく,うまいマネージメントなくしては存続できない可能性が高い」ため,存続のためには,「コミュニケーションが絶えることなく接続されていく状況が不可欠となる」という。

 ネット上のコミュニティの特徴として,毎回の参加が自発的に行われるものであり自由意思に委ねられる比率が高いと考えられる。したがって,コミュニティからの離脱は簡単である。たとえば,ネット上のコミュニティは「気分じゃない」とか「他に気になるコンテンツがある」といったごく簡単な要因で,視聴習慣が確立していても外れることがある。実際,内堀・渡辺(2022)では16-29歳ではテレビ番組でもインターネットのライブ配信でも,それらを見るために時間をやりくりする人はどちらも3割台で,放送や配信に合わせない人が多数派であり,繋がりの緩さが見られると指摘している。

 反対に,ネット上のコミュニティに改めて参加することも,対面のコミュニティより容易であり,その手軽さはコミュニティから離れられる原因にも参加する魅力にもなり得るのである。



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