4−1.動画配信上のコミュニティとは  

 動画配信におけるコミュニティは,配信者と一人の視聴者という1対1の関係だけではない。その動画の視聴は一人でしているけれど,同じ動画を多くの他の人が視聴していることを視聴者全員が理解していると考えられる。そして,その動画を視聴する視聴者は,「特定の配信者を視聴している」とか「その配信者が好き」といった理由で,仲間同士でのつながりがあると認識していることが考えられる。そういったいわば仲間意識の実感が伴う理由の1つに,視聴者は,配信中または配信後に同じ動画配信を視聴している人同士のコメントを読むことができる点が挙げられる。

 同じ動画を見ている者同士を「コミュニティ」とするならば,そのコミュニティを形成している人達には,社会的アイデンティティ(Tajfel,Turner,1978)が形成されていると考えられる。社会的アイデンティティとはTajfel,Turner(1979)が提唱した理論であるが,個人が社会集団に関して自分のアイデンティティを定義し,そのような同一化が自己アイデンティティを保護し強化する機能を持つと説明している。そして自分の所属している集団には何事についても肯定的に見る側面があるという特徴がある。したがって,動画配信上の同じコミュニティの視聴者は,お互いのコメントを見ることで,自分に近い意見のコメントを見つけたり,その動画の配信者もそれを取り上げることで,コミュニティへの帰属意識を高めたりしているのではないだろうか。


4−2.インターネットメディア上のコミュニティ  

 メディアの発達,とくにインターネット環境におけるSNS等により,私達は知らない人ともメッセージや意見のやりとりが可能となった。そして実際に同じ場にはいなくとも通信手段を用いることでコミュニティを形成することができるようになった。

 藤竹(2004)は「情報共同体」という用語でマス・メディアから伝わってくる情報を媒介とした人々がつながっていると述べた。例えば,前納・岩佐・内田(2012)によると所謂深夜ラジオは空間的にはバラバラに視聴していても,同じ時間帯,同じラジオ番組を聞いているというライブ感覚やリスナーからの投稿はがきで同世代の声が電波に乗るシステムにより,一体感が高まったと考えられる。

 それに加えて近年では,インターネットを通じてより気軽に自分の考えを発信できるようになった。それにより自分からネット上に情報を発信する人も増えたし,ネット上のコミュニティの数も増えたため,自分の所属したいネット上のコミュニティについても幅広く様々なものを選ぶことができるようになったといえる。ネット上において極めてマイナーでニッチなコミュニティも存在し,そういうコミュニティを探して参加する者もいるわけである。つまり,いずれにせよ,ネット上で自分が話したい内容を自分が話したい人とだけ話すことができることできる,閉じたコミュニティが形成されるようになったと考えられる。

 配信者を中心にした閉じたコミュニティがいくつも生成され,かつコメントの書き込みの手軽さによって,他のメディアに比べてコミュニティの結びつきを強めているのではないだろうか。     



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