考察
3. マスメディアやSNSの利用,自尊感情,痩身願望間の影響の性差について
マスメディアやSNSの利用が自尊感情にどのような影響を与え,さらにそれが痩身願望にどのような影響を与えるのかについて,性別によって影響に差があるのかを検討した。
「痩せることへのポジティブ感情(マスメディア)」から「基本的自尊感情」への影響に関して,男性よりも女性の方が大きくなっていることが分かった。近藤(2010)は,基本的自尊感情を他者との比較に依拠せずに生じる自己受容の感情としている。マスメディアで痩せている人を見て「自分も頑張ろう」と思ったり,希望を抱いたりする人は,男性に比べて女性の方が自己受容の感情に大きく影響する結果となった。望月ら(2016)は,小・中・高校生のいずれの学年においても,女子と比べて男子の方が,基本的自尊感情が高いことを示している。このことから,男性は他者と自分を比べることなく,自分自身を受け入れる傾向にある一方で,女性は痩せている人を見ることで希望を抱き,「自分も頑張ろう」と思うことができるため,前を向くことができる自分自身を受け入れ,基本的自尊感情に影響を与えることが考えられる。
「痩せることへのネガティブ感情(SNS)」から「SNSの利用時間」への影響に関して,女性よりも男性の方が高くなっていることが分かった。これは,SNSで痩せている人を見て「私はダメだ」と思ったり,失望したりする人は,女性に比べて男性の方がSNSの利用時間が長くなっていることを示唆している。一方で,「痩せることへのネガティブ感情(マスメディア)」から「SNSの利用時間」への影響に関しては,男性よりも女性の方が高いことが分かった。これは,マスメディアで痩せている人を見て「私はダメだ」と思ったり,失望したりする人は,男性に比べて女性の方がSNSの利用時間が長くなっていることを示している。これらのことから,SNSの利用時間が長くなる影響要因が男性と女性で異なり,男性はSNSによるネガティブ感情,女性はマスメディアによるネガティブ感情が,それぞれSNSの利用時間に影響していることが分かった。これは,女性はSNSよりも日常から離れ,より外見を気にすることを求められるマスメディアで自分に失望することで,日常に近く,身近な人の安心感があるSNSの利用時間が長くなると考えられる。一方で男性は,女性よりも社会的自尊感情が高いことで,SNSで痩せている人を見て失望しても前向きにとらえ,他者と比べてより自分の良さを見つけようとSNSの利用時間が長くなると考えられる。
「痩せるための情報への積極性(SNS)」から「マスメディアの利用時間」に関して,女性よりも男性の方が高いことが分かった。これは,SNS上の痩せるための情報を積極的に見たり検索したりする人は,女性よりも男性の方がマスメディアの利用時間が長くなっていることを示唆している。一方で,「痩せることへのポジティブ感情(SNS)」から「マスメディアの利用時間」に関しては,男性よりも女性の方が高いことが分かった。これは,SNSで痩せている人を見て「自分も頑張ろう」と思ったり,希望を持てたりする人は,マスメディアの利用時間が長くなっていることが示されている。これらのことより,マスメディアの利用時間が長くなる影響要因が男性と女性で異なり,男性はSNSにおける痩せるための情報への積極性,女性はSNSによるポジティブ感情が,それぞれマスメディアの利用時間に影響していることが分かった。女性のマスメディア利用時間について,SNSで積極的に痩せるための情報を調べる人は短くなっているが,男性は,SNSで積極的に痩せるための情報を見る人はマスメディアの利用時間が長くなっている。これは,男性よりも痩身を求められる女性の痩せるための方法はSNSに十分あるが,男性が痩せるための情報は少ないため,マスメディアも利用して痩せるための情報を取得するために,SNSで痩せるための情報を積極的に見る男性のマスメディア利用時間が長くなっていると考えられる。また,男性よりも女性の方が,痩身願望が高いことから,SNSで痩せている人を見てポジティブな感情になる人は,マスメディアでもより多くの痩せている人(モデル,タレントなど)を見て目標とすることが多い女性の方が,マスメディアの利用時間が長くなると考えられる。
また,痩身願望への影響に関しては性差がみられず,性別に関わらず,SNSから痩身願望への影響が大きくなっていることが分かった。これはSNSの急速な普及によりマスメディアよりもSNSを利用する時間の方が長くなっている傾向があり,男女問わずSNSの影響が大きくなっているためであると考えられる。
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