考察
2. マスメディアやSNSの利用が自尊感情および痩身願望にどのような影響を及ぼしているのかについて
マスメディアやSNSの利用が自尊感情にどのような影響を与え,さらにそれが痩身願望にどのような影響を与えるのかについて検討した。
マスメディアの利用時間,SNSの利用時間から自尊感情や痩身願望への影響に関しては,いずれも影響は見られなかった。これは閲覧内容について配慮しておらず,マスメディアやSNSの利用時間が長いことで,必ずしも痩せるための情報,痩せている人または自尊感情に影響を与えるような情報を目にするとは限らないため,影響はみられなかったと考えられる。
また,自尊感情から痩身願望への影響もみられなかった。自尊感情から痩身願望への影響がみられなかったことに関して,清原ら(2012)によると自尊感情が低い人ほど現体型へのデメリット感が高まり,痩身願望を強めるとされているが,本研究では先行研究を支持しないものとなった。これは,自尊感情が直接的に痩身願望に影響を与えているわけではなく,現体型へのデメリット感,痩身のメリット感,身体満足度など他の要因を介して痩身願望に影響を与えている可能性が考えられる。今後,自尊感情から痩身願望に影響を与える過程として,他の要因を介した過程で検討を行っていく必要があるだろう。
さらに,SNSの影響のすべての因子から痩身願望に強い正の影響がみられた一方で,マスメディアの影響のいずれの因子からも痩身願望への影響はみられなかった。また,マスメディアの影響のいずれの因子からも自尊感情への影響はみられなかった。これらのことから,SNSに関しては痩身願望に強く影響しているが,マスメディアに関しては自尊感情および痩身願望への影響はみられないことが分かった。これは,SNSの急速な普及によりマスメディアよりもSNSを利用する若者が増加したため,マスメディアの影響がみられず,SNSの影響が大きくなったことが考えられる。また,SNSはマスメディアよりも多くの情報量があり,自分が興味のある特定の情報を詳しく調べることができたり,自分が興味のある情報が流れてきやすいという特徴がある。そのため,痩身に関する情報を多く取得することができることで,マスメディアよりもSNSの方が痩身願望に影響を与えると考えられる。
「痩せることへのネガティブ感情(SNS)」から「社会的自尊感情」に対して負の影響がみられることに関して,SNS上で痩せている人を見ることで「私はダメだ」と思ったり,自分に失望してしまったりする人ほど,社会的自尊感情が低いことが分かった。これは,SNS上の痩せている人と自分を比べ,自分が劣っていると感じてしまうことから,他者と比較した際に自分の方が優れているという優越性に基づく感情である社会的自尊感情が低くなってしまうことが考えられる。SNSは,誰でも,いつでも,なんでも投稿することができるという特徴があり,日常の良いところを切り取って投稿したり,画像を加工して自分自身を美化したりすることも容易に可能である。そのため,現実よりも理想的に見える人が多くいることで,他人と比べて自分に失望し,劣等感を感じやすくなってしまうため,社会的自尊感情が低くなると考えられる。
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