3.インターネット利用動機について
現代日本ではインターネット環境の浸透や,スマートフォンやタブレットなどのICT機器の普及により,多くのSNSの利用者が存在する.SNSの身近な例として,YouTube,LINE,Instagram,BeReal,X(旧:Twitter)などが挙げられる.これらのSNSのツールは,自己を表現することや,気になる人や物を閲覧し,情報を得ることが可能である.また,現代日本では,SNS(Social networking service)の普及が進んでいることに伴って多くの情報が溢れている.総務省が実施した「通信利用動向調査」によると2021年のSNS利用率は78.7%に及び,13歳から19歳では90.7%,20歳から29歳では93.2%と,若者の利用率が特に大きい.
痩身願望とメディアの関係については,浦上他(2015)はメディアの利用頻度と痩身理想の内在化との関連性について,日本語版SATAQ-3R(Sociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3 Revised)という体型に関するメディアの情報を受けた個人が,その影響から痩身理想をどの程度内在化しているかを評価する尺度を作成し,信頼性と妥当性を確認した.その日本語版SATAQ-3Rとインターネットやテレビ,雑誌といったメディアの利用品のとの関連性について男女別に検討した結果,男性より女性の方が,メディアに映し出される人々の影響を受けて痩身理想を内在化し、メディアの情報は自分の外見に関する重要な情報源であるという意識が高く、自分の外見についてプレッシャーを感じることを明らかにした.石川他(2020)は痩身願望のあるダイエット経験者はインターネット上の検索サイトでダイエットに関する検索を行うことやニュースサイトのダイエット記事を読むことによって体型認識に影響を受けていると明らかにした.多くの若者が日常生活においてSNSを利用する現代において,痩身に関する情報とSNSにおいて触れることは容易となっていると考える.また,泉水・桑原(2022)はSNSの利用時間が増えると他者と自己を比較する志向性(能力比較)が強い個人にとっては,長時間のSNS利用が精神的健康に悪い影響を及ぼすことを明らかにした.SNSが急速に発達し続ける現代に生きる人々にとって,痩せているモデルやダイエット情報を目に触れやすいと言える.そこで,痩身理想を内在化し,痩身願望を抱き,精神的健康に負担がかかりつつあるのではないのだろうか.
田崎・今田(2004)は,今田・長谷川(2003)の日本語版Self-Esteem Scaleと食行動の諸特徴を測定する16項目からなる今田・長谷川(2003)の日本語版DEBQを用いて,大学生について自尊感情が低いほど痩身願望が高いという負の相関関係を示した.また,馬場・菅原(2000)は,体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と,痩身願望との関連性を検討した.すると,痩身願望は3つのルートから高められることを明らかにした.1つ目は,身体的な肥満から痩身願望に直接至るルート,2つ目は,自己顕示欲求から発する痩身願望,3つ目は自己不全感から発するルートである.このことから,2つ目の自己顕示欲からは,他人に対して自己を主張し,認められたいという承認欲求があると考える.また,3つ目の自己不全感からは,自分自身に自信を持つことができず,認められないという葛藤が見受けられる.2つ目と3つ目のルートから,痩身願望を持つ人は,自己を他者に理解して認めてもらいたいという欲求が大きいと考えられる.このような現実世界で,自尊感情が低く,認められたいと望み,葛藤状態におかれた人々は,現代というSNSが発達した社会の中で,インターネットやSNS上で自己の表出と他者からの賞賛や承認を求めるのではないかと考える.インターネットやSNSを利用する際,自己を他人によって承認し,認めてもらう目的を持つことが,痩身願望に及ぼす影響はあるのだろうか.このように,SNS利用と?身願望は何らかの関連があることについては知見が得られているようだが,SNSの使い方が痩身願望やダイエット行動,精神的健康状態にどのような影響を及ぼしているのかの解明は進んでいないと考えられる.そこで本研究では,インターネットの使い方が痩身願望やダイエット行動,精神的健康状態に与える影響について検討する.
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