1.はじめに
私たちは,他者と関わり,自分の居場所を探して生きている.社会生活を営む集団の中で自分の立ち位置を意識しながら生活をする.その過程において,必要以上に他者の評価を気にしたり,他者の行動に合わせたりする場面が生じることがある.特に青年期には,対人関係に敏感になり,「自分がどう思われているのか」「周囲に溶け込めているのか」といった不安が生じやすい.調・高橋(2002)によれば,発達課題の一つに対人関係の拡大が挙げられる青年期は,不安定性の強くなる時期であると指摘している.このような不安は,周囲への過剰な適応を強め,自分の意見や感情を抑え込む要因となる場合がある.つまり,他者とは,安心感を与える存在であると同時に,不安や葛藤の源でもあるといえる.
そうした他者との関わりを通し,自己に対する関心は,自分の内面を見つめる行為として現れることがある.伊藤(2001)は,そのような自己を振り返る行動が「ネガティブな反すう」になってしまうと,自己の否定的な側面に目を向けすぎて抑うつ的になってしまう可能性を指摘しており,反省しすぎることのマイナスな側面を指摘している.
そこで,ストレスを対処する手立てに注目する.日常生活で,情動を適切に扱うことが求められる重要な場面にストレス経験があり(Mayer,Roberts, & Barsade, 2008),その対処方略は人によって様々である.ストレスを感じた時,自分の感情を優先するか,問題の解決に向かうかによって,自己に関する関心にも差異が発生することが考えられる.
これらの背景から,自己に対する関心,他者への過剰適応行動,そしてストレス対処方略には密接な関連があると考えられる.本研究では,学部やサークル,アルバイトなど,多様な対人関係を経験する大学生,大学院生を対象とする.
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