2.過剰適応


過剰適応とは,環境からの要求や期待に個人が完全に近い形でしたがおうとすることであり,内的な欲求を抑圧してでも,外的な欲求に応える努力を行うこと(石津,2006)である.先行研究では,過剰適応を対人関係上の行き過ぎた適応として捉えられており(益子,2010),様々な人との相互的な関わりにおいてあらゆる影響を与えるものであるといえる.

2−1. 外的・内的適応について

 過剰適応とは本来,社会的・文化的環境への適応を表す「外的適応」と,心理的な安定や満足といった自己の内面への適応を表す「内的(心理的)適応」の両者が調和した状態として捉えることができる(北村,1965).同様に石津・安保(2008)は,過剰適応は,個人の性格特性からなる「内的側面」と,他者志向的である「外的側面」から構成されると指摘している.過剰適応の内的側面としては,ストレスを周囲に示さず自己の内部に蓄積させてしまう傾向があり(加藤・神山・佐藤,2011),自尊心の低下や抑うつ感を持っているとされている(益子,2008).また,依存欲求から見捨てられ不安が現れやすい(山田,2010)ことも指摘されている.周囲に同調し,摩擦を回避することでは外的適応を促すとも捉えられるが,自己の心に生じた感情に向き合うことを妨げることで,内的適応に歪みを生じさせるものである(桑山,2003)とされている.宮本(1989)は,そのような適応の問題として,「不適応」と「過剰適応」の二つを挙げ,「必要以上に周囲の期待に応えようとしたり,そのために過度に自己抑制的になるなど,バランスのとれた適応を通りすぎて過剰な適応に至った状態」を「過剰適応」と位置付けた.

 このように,過剰適応とは本来の適応バランスが崩れ,自分自身の考えや感情を過度に抑圧し,環境の要求に対して過剰に応えている状態である(相馬,2014).その状態を形成する内的要因として,依存欲求や見捨てられ不安,自尊心や自己肯定感の低さから抑うつ感が引き起こされること等,様々な不適切状態に陥る危険性が先行研究によって明らかとなっている.そして,過剰適応という概念は,大きく過剰な外的適応行動と,内的適応の不全といった個人の特徴の二つの構造をとる(石津他,2008).


2−2. 過剰適応の悪影響について

 過剰適応はこれまでは心身医学の分野で心身症の病前性格とされており(殿岡・大島・湯浅・谷口・内田・渡辺・桂,1994),心理臨床の分野では,主に事例研究によって,登校しぶり(益子,2010),不登校(河野,2003),気分障害(川口,1998),対人恐怖(徳田,1998),神経性食欲不振症(兒玉,1983)といった身体的症状と関連があることが指摘されている.さらに,近年では,機能性難聴(芦谷,2015),自閉症スペクトラム(本田,2018)等の関連も指摘されている.

 以上より,過剰適応の構造化や様々な変数におけるその影響についての知見は得られているようだが,ストレス対処方略を媒介させた研究はほとんどなされていない.これより,本研究では,ストレス対処方略を媒介変数に設定し,過剰適応と内省との関連を改めて検討する.

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