考察


3. 過剰適応とストレス対処方略の相互作用が内省に与える影響について

 仮説CDの検討のため,自意識尺度の下位尺度である「公的自意識」,「私的自意識」を独立変数とし,ストレスコーピング尺度の下位尺度である「情報収集」,「放棄・諦め」,「肯定的解釈」,「計画立案」,「回避的思考」,「気晴らし」,「カタルシス」,「責任転嫁」を従属変数として重回帰分析を行った.

 また,過剰適応傾向が,ストレス対処方略を介して内省傾向に与える影響について検討するため,自意識尺度の下位尺度である「公的自意識」,「私的自意識」を独立変数,ストレスコーピング尺度の下位尺度である「情報収集」,「放棄・諦め」,「肯定的解釈」,「計画立案」,「回避的思考」,「気晴らし」,「カタルシス」,「責任転嫁」を媒介変数,青年期前期用過剰適応尺度の下位尺度である「他者配慮」,「期待に沿う努力」,「人からよく思われたい欲求」,「自己抑制」,「自己不全感」を従属変数として投入し,それぞれの媒介分析を施行した.

重回帰分析の結果,ストレスコーピング尺度の「計画立案」は,自意識尺度の「私的自意識」,に対して有意な正の影響がみられた.「カタルシス」は,「公的自意識」に対して有意な正の影響がみられた.

媒介分析の結果、「計画立案」を媒介した場合,「他者配慮」から「私的自意識」,また,「自己不全感」から「私的自意識」に有意な間接効果が見られ,媒介モデルが成立した.「カタルシス」を媒介した場合,「期待に沿う努力」から「公的自意識」,また,「自己抑制」から「公的自意識」,また,「自己不全感」から「公的自意識」に有意な間接効果が見られ,媒介モデルが成立した.

まず、ストレスコーピング応尺度の「計画立案」が,自意識尺度の「私的自意識」に正の影響を示したことについて,原因を検討し,解決のための計画を練るストレス対処方略と,自分の気持ちを理解しようとするという自意識に関連があることを示している.よって、仮説C『ストレス対処方略の問題焦点型である「情報収集」,「計画立案」得点が高い人ほど,課題解決に直結する可能性が高いため,自己の行動を反省する「私的自意識」得点が低くなると考えられる.』は支持されなかった。「計画立案」には、過ぎたことへの反省を踏まえて次にすべきことを考える、という自己を振り返る内容も含まれている。また、原因を検討し、解決策を模索する中で、自己と向き合い、よりよくできる方法を探るために、内省を行うのではないかと考えた。よって、仮説D『過剰適応傾向が高い人が、問題焦点型のストレス対処方略を行う場合、自己の行動を反省する「私的自意識」得点が低くなると考えられる。』は支持されなかった。

以上の結果より、過剰適応傾向の強い人が、原因を検討し,解決のための計画を練るストレス対処方略を行った場合、内省傾向は高くなることが明らかになった。しかし、これは当初想定していたネガティブな反すうを繰り返す、否定的な内省ではなく、課題解決のために自己の改善点を発見するための内省である。本研究では、内省のマイナスな側面に注目し、内省を控えるべきであるという立場に立った研究を実施した。しかし、やはり、自己を振り返る行為への動機はさまざまあり、一概に控えるべきものであると言えないことがわかった。



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