6.本研究の仮説


第1の仮説として,山田(2010)の研究によれば,過剰適応な性格を持つ人は,依存欲求から見捨てられ不安が現れやすいことが指摘されており,見捨てられ不安が強く,「人に好かれたい」と思う気持ちは,他者の評価を敏感に感じ取ると考えられる.ゆえに,過剰適応傾向が高い人ほど,自分が他人にどう思われているかを気にした上で,他人からの評価を考えながら行動すると考えた.

第2の仮説として,益子(2008)の研究によれば,過剰適応な性格を持つ人は,自尊心の低下や抑うつ感を持っているとされており,それらは,自信のなさや,自分のよくないところばかり気にする行動につながることが考えられる.ゆえに,過剰適応傾向が高い人ほど,自己の行動を振り返り反省する傾向にあると考えた.

さらに,加藤他(2011)の研究では,過剰適応の内的側面として,ストレスを周囲に示さず自己の内部に蓄積させる傾向が指摘されている.蓄積されたストレスを対処するためには,感情の制御を重点におくことが考えられる.ゆえに,第3の仮説として,過剰適応傾向が高い人ほど,物事の見方を変えたり気晴らしをしたりすることで,ストレス状況下における自身の感情の制御につなげる傾向にあると考えた.

また,ストレス対処方略の中でも,一般に,問題解決型が課題解決に直結する傾向にある(Park & Alder,2003)ことから,問題焦点型によってストレスを対処する人ほど,課題解決が容易であり,失敗することが少ない.ゆえに,第4の仮説として,課題を解決しやすい問題焦点型のストレス対処方略を行う人ほど,自己を振り返り,反省する傾向にないと考えた.ゆえに,過剰適応傾向が強い人は、情動焦点型のストレス対処方略を行いがちであるが、問題焦点型のストレス対処方略を行った場合、内省を行わないのではないかと考えた。これより、第5の仮説として,過剰適応傾向が強い人でも、問題焦点型のストレス対処方略を行った場合、自己の行動を反省する傾向にないと考えた。


 仮説1:過剰適応傾向が高い人ほど,他者からの評価的態度に敏感であるため,自分が他人にどう思われているか気になる,他人からの評価を考えながら行動するといった「公的自意識」得点が高くなると考えられる.

 仮説2:過剰適応傾向が高い人ほど,自分自身を低く評価しがちであるため,自己の行動を振り返り反省する「私的自意識」得点が高くなると考えられる.

 仮説3:過剰適応傾向が高い人ほど,感情の制御に重点をおいた情動焦点型のストレス対処方略を行い,「放棄・諦め」、「肯定的解釈」、「回避的思考」、「気晴らし」、「カタルシス」、「責任転嫁」得点が高くなると考えられる.

 仮説4:ストレス対処方略の問題焦点型である「情報収集」,「計画立案」得点が高い人ほど,課題解決に直結する可能性が高いため,自己の行動を反省する「私的自意識」得点が低くなると考えられる.

 仮説5:過剰適応傾向が高い人が、問題焦点型のストレス対処方略を行う場合、自己の行動を反省する「私的自意識」得点が低くなると考えられる。  



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