1.はじめに
人はたびたび自身の弱点や他者より劣っている部分が気になり,憂鬱な気分になることがある。そのような自分の弱みに対して,そのままでよいと受け入れることができれば,安定した心理状態で生活することができるのではないだろうか。野口(2013)は『「これでいい」と心から思える生き方』にて,悩みや迷い,辛いこと,悲しいことがあっても自分の人生を「これでいい」と受け入れ自分らしく生きる方法を紹介している。他にもありのままの自分を好きになる方法や利点について触れた本はいくつか出版されている。しかし,このような本を読み,自ら意識しありのままを受け入れようとする方法とは別に,日常生活や社会生活を送る中で,ありのままの自分を受け入れられるようなきっかけとなる出来事があるのではないだろうか。きっかけとしては次のことが考えられる。一つは他者から弱点や欠点を受容してもらうことである。笹川(2015)は,他者から認められることで,自分自身を認めやすくなる可能性を示唆している。二つ目は,自分の肯定的な面に目を向けることである。肯定的な面への注意の向け方について,照下・福岡(2024)は,受容あるいは拒絶を感じさせる他者との関わりが自己に対する注意の向け方を変容させ,ありのままの自分を受け入れることを意味する「自己受容」にも変化を与えることを示している。このことから,ありのままの自分を受け入れるにあたって他者の存在は重要なものと考えられる。そして,他者から自身の弱点や欠点を受け入れてもらうためには,まず自分のことを他者に話すという行為が必要なのではないだろうか。また,話す内容が自身の悩みでないとしても,自分の話に対して好意的に反応してくれる人がいるということは,他者に受容されているという感覚を高めると考えられる。しかし,他者に自分のことを話す際,その内容は趣味といった軽いものから,深刻な悩みなど深いものまで存在し,それに対する聞き手の反応も様々である。深刻な悩みなどを聞くことは聞き手にとって負担になる可能性もあり,拒絶的な対応をされることもあるだろう。その場合,ありのままを受け入れるどころか憂鬱さが増してしまうだろう。これらのことから,どのような自分の話をし,聞き手にどのような反応をされやすいかにより,ありのままの自分を受け入れる程度に差が生まれると考えられる。
next→