2.自己受容
2. 自己受容について
伊藤(1991)は,自己受容を「ありのままの自己を歪めることなく認識し,自分自身として受け入れ好きになること」と定義している。また,今江・齋藤(2004)は自己受容を「決して認識レベルの心性を指すのではなく,自己に対する基本的態度」だとしている。このことから,自己受容とは,ありのままの自己を正しく認識したうえで,認識した自己の否定的側面にとらわれず,様々な側面をもつ自分自身を受け入れていこうとする態度であると考えられる。
また,山田・岡本(2007)は自己受容のもつ2つの側面について触れており,自己受容には,能力や外見など個人の持つ属性に対する自分自身の判断による受容である「自己による自己受容」と他者に受容されていると感じることによって達成される「他者を通しての自己受容」があると指摘している。
2−1. 自己受容性の発達
人はどのように自己受容性を発達させてきたのだろうか。Erikson(1950,1959)は,乳児期に母親から学ぶ基本的信頼・不信頼が,生涯にわたる自己信頼や自己受容を導くと述べている。基本的信頼感の一つである自分自身に対する信頼感には,自分は母親などの重要な他者に受け入れられる存在であるという信頼感が含まれており,他者に受け入れられる体験によって生まれる安心感が自己受容につながると考えられている。幼児期について,板津(2013)は自己についての認識は,他者からの好意や是認に強い影響を受けており,それが自分自身の価値や能力の捉え方の基本となるため,子どもの自己概念や自尊心,自己受容の形成には,周囲の人達の養育態度や関わり方に強い影響を受けると述べている。そして,Jersild(1955)は,児童期には子どもとの関わりが深い教師の自らに対する理解や受容が児童の自己受容の要因となることを重要視している。このように,乳幼児期から児童期にかけての自己受容の形成には両親や教師といった周囲の重要な他者の存在が重要であると考えられる。次に青年期について,加藤・加藤(1988)は,青年期には自己に対し客観的な評価ができるようになり,他者の優れた点に気づくようになるため,自分への要求も高くなり,自分の欠点や弱点に敏感になることがあると述べている。そして,理想とする自己を目標として現実の自己を意識的に形成していくことにより自己を受容し自信を得たり,それでも変えることのできないことに対してもそのまま受容し,本来の姿や在り方を自分の納得できるものにしたりしていくプロセスを経て自立した成人へと進むとしている。
2−2. 自己受容を規定する要因
また,その他に自己受容を規定する要因について,浦川(2014)は,幼少期からの認められ経験と青年期の自己受容について扱う研究を行っている。親からありのままの自分を受け入れられた,結果を出し認められた,努力や姿勢を認められた,といった親から認められた経験のある人は,ない人に比べて自己受容得点が高くなることを明らかにした。また,親以外の他者から認められた経験がある人も自己受容得点が高いことが示されており,親や友人先生や親族,恋人など身近な他者に認められる経験が青年期の自己受容感を高めることが示唆されている。一方で,自己受容の規定因を愛着理論の観点から検討した外尾・池上(2017)は,養育者が受容性と応答性を充分に示した場合に形成される愛着スタイルである安定型愛着スタイルの高群では,自己受容が対人関係領域での理想と現実の乖離が大きくなると自己受容が有意に低下することを報告した。しかし,養育者が受容性と応答性を示さず,拒否的な態度を取った場合に形成される愛着スタイルである,拒否的愛着スタイル低群においては乖離による自己受容の低下は見られず,養育者から否定されたことはないという認知が青年期の自己受容を促進することが示唆された。このことから,自己受容を安定させるためには,他者から拒絶されないことも重要だと考えられる。また,照下・福岡(2024)は,自己受容をもたらす自己側面への注目について,背景要因として被受容感と被拒絶感を含めて検討を行っている。その結果,被受容感は自己受容に対して直接に,また肯定的側面への注目を媒介して間接的に影響していることが示された。また,被拒絶感から自己受容に対しては,否定的側面への注目を介して影響していることが示された。このことから,他者に受け入れられることは,自身の良いところへの注目を促し,自身の弱点や欠点への寛容さを身につけることにつながると考えられる。青年期の自己受容の形成について,藤川・大本(2015)は,落ち込む気持ちを共感してくれる父親を持つ高校生の自己受容は男女ともに高く,母親からの共感感は女子でのみ自己受容との関連が見られたと報告している。親からの理解感については,男子は父親,母親ともに理解感高群の自己受容得点の平均が有意に高く,女子も父親,母親ともに理解されていると感じるほどに自己受容は高くなることが示された。青年期後期については,若林・小松(2001)による看護大学生と対象として研究で,友人からのサポートのみが自己受容・他者受容と関連があることが認められており,青年期後期の自己受容の形成には,友人との関係が重要であることが示唆されている。これらのことから,身の回りの他者から受け入れられたり,理解,共感,サポートといった受容的な態度をとられたりすることで,自己受容が高まると考えられる。そして,理解や共感,サポートを得るためには,理解,共感してほしいことや悩みについて他者に話し,聞いてもらう必要があると考えられる。
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