考察


 3.進路選択に対する自己効力感と就職不安が進路探索行動に及ぼす影響について

 就職不安や進路選択に対する自己効力感が進路探索行動と教員養成課程に関わる進路探索行動にどのように影響しているのか,そして就職不安と進路選択に対する自己効力感の交互作用がどのように進路探索行動や教員養成課程に関わる進路探索行動に影響しているのか検討するため,階層的な重回帰分析を行った.その結果,就職不安と進路選択に対する自己効力感の交互作用項がそれぞれの進路探索行動に有意な影響を及ぼしておらず,仮説3は支持されなかった.就職不安と進路選択に対する自己効力感の交互作用項が進路探索行動に影響を及ぼしていなかった点について2点の考察を行う.

 矢崎・斎藤(2014)は内定獲得後の就職不安を低減する効果を情報探索行動と入社前研修に着目して検討した.その結果,就職活動時の情報探索行動と入社前研修の交互作用効果がみられ,就職活動時の情報探索行動は入社前研修の参加がもたらす就職不安を低減する効果を強めることが示された.さらに,就職活動において企業の特徴について多く調べた者は就職不安が低いことが示唆された.また上田・猪原(2017)は体験の回避が就職活動不安と進路探索行動に及ぼす影響について検討した.その結果,体験の回避傾向と就職活動不安の交互作用がみられ,体験の回避傾向が高い者ほど就職活動不安が高まり,進路探索行動を促進することが分かった.つまり,特定の個人的な体験や出来事を経験することを嫌悪し,そのような経験から逃れようと試みる傾向が強いと就職活動に対する不安が高まるにつれ,進路探索行動が多くなることが示唆された.これらのことから,一つ目の考察として,就職不安と進路選択に対する自己効力感の交互作用項が進路探索行動に影響を及ぼしていなかったのは,就職不安が否定的なイメージや思考を低減したり,変容させたりしようとする性格特性や進路探索行動といった行動量と直接的な関連があるものの,進路選択に対する遂行可能感とは直接的な関連がないからではないかと考えられる.

 ところで,仮説にはなく進路選択に対する自己効力感と就職不安の交互作用を検討するにあたり行った階層的重回帰分析において,「教員採用試験不安」が「教職の積極的対処行動」に対して負の影響を与えていた点や「職場不安」が「教職の積極的対処行動」に対して有意な正の影響を与えていたこと,「職場不安」が「教職をめざすための情報収集」に正の影響を与えていた点において,「学校の上司とうまくいかなくなったらどうしようと思うことがある.」や「教員の人間関係が不安である.」といった将来の職場に対する不安を抱えると「説明会に参加してそれらの不安を解消しないといけないのではないか.」という思いが強くなり,「教員採用試験の筆記試験の勉強をする.」,「教員採用に関わる説明会に参加する.」といった積極的対処行動をとる傾向が多くなる.このような理由から「職場不安」が「教職の積極的対処行動」に正の影響を及ぼしていたと考える.また,「教員採用試験不安」が「教職の積極的対処行動」に対して負の影響を与えていた点については,教員採用試験不安には「自分の希望する教職に就けるかどうか心配である」,「友達は,いつから教員採用試験対策を始めているか気になる」といった項目を含んでおり,これらの項目の不安を「教員採用試験の筆記試験の勉強をする」,「大学などで開催される教員採用試験の説明会に参加する」といった行動によって解消できるとは必ずしも言えず,むしろそのような項目の不安が本稿における積極的対処行動を抑制しうるように働いたのではないかと考えられる。将来の職場への不安である「職場不安」が高まるとその不安を解消しようと説明会へ参加したり,興味がある学校種の情報を検索したりする行動をとるため,「職場不安」から「教職をめざすための情報収集」に対して有意な正の影響がみられたのではないかと考えられる.

 森田(2014)では,就職活動不安が情報収集行動に及ぼす影響について進路選択に対する自己効力感の高低によって検討したが,結果,活動継続不安と準備不足不安については進路選択に対する自己効力感の高い者は情報収集行動を行いやすいという結果になった.一方で自身のアピール不安への不安が高ければ,進路選択に対する自己効力感の高低によらず情報収集行動を行いやすいという結果になった.ただ,就職活動不安と進路選択に対する自己効力感の交互作用がみられなかったことから就職活動不安と進路選択に対する自己効力感の交互作用によって情報収集行動が異なるとは言えないとしている.森田(2014)の対象とした就職不安と本研究の就職不安は少し異なるが本研究の結果と類似している.教員志望者においても森田(2014)の結果と同じように教員採用試験に関する不安である「教員採用試験不安」や将来の職場に関する不安である「職場不安」,自身の職業の適性に関する不安である「職業適性不安」を低減するにあたり,進路選択に対する自己効力感の高低によって不安を低減する進路探索行動が異なるとは言えないということが考えられる.つまり,進路を選択・決定する過程で必要な行動に対する遂行可能感の高低に関わらず,職場に関する不安や教員採用試験に関する不安を抱けば進路探索行動によってそれらの不安を解消しようとすることが考えられるため就職不安尺度の各下位尺度と進路探索行動尺度の各下位尺度で交互作用が見られなかったと考える.



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