4.補償について
4. 石坂・藤森(2019)は,補償を「劣等感を補うための感情または行動」と定義している。宮城(1979)によると「補償」という観点は,劣等感の心理学において,欠くことのできぬものであるとされている。Adler(1930)は,すべての子どもは劣等ということについて生まれながらの感情を持っており,その感情は想像力を刺激したり立場を改善したりすることによってこの心理学的劣等感を消滅させようと企てると考え,劣等感の補償的側面を取り上げた。また,Allport(1937)は,「直接的な適応の経路を通しては到達できない目標は,いろいろな補償を通して追及される」と主張した。宮城(1979)は,劣等感の補償には,強気や勝気など,気性の要素が関わることで起こる「攻撃的補償」や「運動勃発的補償」などの補償も挙げて,補償を意識的に行うものと無意識に行うものとに分けることができると指摘した。友尻(2011)は劣等感を感じた時の補償行動を「努力志向性」「防衛反応」「代償志向性」「劣等感の表出抵抗」「劣等感の否認」の五つに分類した。また,友尻(2011)は,劣等感に対する反応として,代償が相対的に多く用いられる傾向にあったことを示し,その行動で自己の劣等性に直接向き合うことを避け,他のことで満足を得ていくことで情緒的安定を保とうとしていると推測している。
よって,克服しようと努力するような補償で劣等感を乗り越えられない場合には,防衛機制や合理化など劣等感を根本的に克服しようとしない補償を取ろうとすることが推測できる。更に,石坂・藤森(2019)の研究では友人関係領域での劣等感の補償について,劣等感を強く感じない者は代償行動で補償を行い,劣等感を強く感じる者は防衛的行動で補償を行うという結果が示されている。石坂・藤森(2019)の研究では,劣等感の領域ごとにどのような補償行動がみられるかは研究されているが,劣等感に対して補償行動を行った際の自尊感情との関係や,性差について検討されていないため,本研究ではその点についても検討する。
←back