3. 劣等感について


3−1. 劣等感について

 友尻(2011)は劣等感を「人が社会の中で自分と他者を比べたり,今の自分と理想の自分を比べたりして,それよりも劣っていると感じて悩み,苦しむというような感情」と定義している。従来,劣等感は他者との比較の中から生まれるものであることに焦点が当てられていたが,現在の自分と理想の自分を比較することで生じる劣等感についても示唆され始めている。劣等感はどこから生まれるのだろうか。劣等感についての実証研究では,劣等感が生じる領域を分類した研究が多く,郷古(1972)は劣等感を環境的・性格的・能力的・身体的に分類し,安塚(1982)は,自己に対する劣等感や,家族・友人に対する劣等感など,劣等感を抱く対象についても検討している。また,森津(2007),友尻(2011),川合(2014)は大学生に対し調査を行っており,その結果,いずれの研究においても劣等感尺度得点の結果より,男性よりも女性の方が劣等感が高いことが明らかにされている。


3−2. 青年期の劣等感について

 青年期は,第二次性徴やアイデンティティ追及の時期であり,身体的・精神的な変化が著しく起こるようになり,男女差や個人差など他者との違いに敏感になっていくと考えられる。また,現代ではSNSが普及しており,簡単に他者の日常生活を覗くことができるため,以前より他者と自らとの比較に思い悩む場面が増えていると考えられる。坂(2009)は,青年期は,急激な身体的変化による個人差の発生や,身体的変化に伴う自己概念・価値観の不安定化,受験や就職のような競争による自他の差異の意識化などによって他者との比較が生じやすい時期であるとしている。劣等感には人によってそれぞれの要因が考えられるが,青年期は他の時期に比べ劣等感が強まる時期であると言われている(返田,1986)。また岸田(1951)は,児童期から青年期にかけて強く感じられる劣等感の種類が変化することを指摘している。 坂(2008)は,青年期における劣等感の発達的変化について研究を行っており,中学生では「学業成績の悪さ」高校生では「身体的魅力がないこと」,大学生では「友達づくりの下手さ」に劣等感を抱くという結果が示されている。また,坂(2008)は,大学生においては,「自分自身を認める」や「自分自身を高める」ことに焦点化した領域に変化するとされており,大学生では,「自分で自分自身を認める助けとなる友達をうまく作れないこと」で劣等感が高くなり,自尊感情の低下に繋がると指摘している。以上のことから,青年は多くの劣等性を持っている中でも,自己のどの側面に劣等感を抱くかは,個人が重要としている自己の領域と関連していることが考えられる。



back/next