2.自尊感情について


2−1. 自尊感情について


 自尊感情は,昔から関心がもたれてきたテーマであり,特に日本人は他国と比較しても自尊感情が低いことが明らかになっている。Rosenberg(1965)は自尊感情について,「自己に対する肯定的または否定的態度」と定義している。自尊感情の定義は研究者によって異なるが,自分自身に対する全体的な評価感情の肯定性,つまり自分自身を基本的に良い人間,価値ある存在だと感じている点で,おおよそ共通する(遠藤,2013)。自尊感情の高さは,自己を尊重し自己の価値を認めることを意味しており(Rosenberg,1965),精神的健康や心理的適応の表れとして解釈されることもある。


 一方で,日本では,国際的に見て自尊感情が低いという報告が以前から行われており,公的機関や研究機関が行う調査においても,このような問題は繰り返し指摘されている。国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター(2015)による日本・アメリカ・中国・韓国による4ヵ国による高校生を対象とした調査では,自己肯定感に関わる「自分は駄目な人間だと思うことがある」と回答したものの割合は,日本の高校生が4か国中最も高く,72.5%がネガティブな回答(「とてもそう思う」「まあそう思う」)をしていた。したがって,質問式形式で測定される自尊感情について,日本は他国よりも自尊感情得点が低いことが示されている。田中(2017)は,日本人の自己肯定的感情の低さについて,日本社会の中で適応的に生きるための文化的な背景による問題であるとし,自己呈示の方略などの在り方による問題でもあると指摘している。例として,日本では「謙虚」を「美徳」と捉えることもでき,更に児童の自己呈示に関する研究から,あまり自分のことを高く評価しすぎない方がよい(吉田・古城・加来,1982)という文化的背景も指摘されている。

 また,日本では若者の自尊感情の低下が捉えられてきている。小塩・岡田・茂垣・並河・脇田(2014)の研究によると,中高生や成人が最近になるにつれて自尊感情の平均値が低下している。これらより,世界各国と比較して自尊感情がもともと低い日本の中でも,近年若者の自尊感情の低下がみられることが分かる。自尊感情の変動について,小塩(2001)は自己像の不安定さを挙げている。自己像が不安定な者は自己を評価する際の基準が曖昧であり,日常の様々な出来事を経験する中で自尊感情が変動しやすくなると考えられている。 また,梶田(1988)が高校生・大学生を対象とした自己評価的意識に関する質問紙調査から,女性の場合,他者のまなざしの意識に関わるものが自己評価的意識の諸意識全体の中で大きな比重を占めるのに対して,男性の場合は自己に対するまなざしに関わるものの比率が大きいことを指摘している。北村(2011)も特に女性は相手との関係において自然と自分が変化する人ほど,自尊感情が不安定であることを示しており,その中でも相手との関係やその場の状況に応じて自然と自分が変化する女性ほど自己評価の規準が流動的になり自尊感情が不安定になると示唆している。これらのことから,自尊感情について性差は存在し,特に女性は周りの状況によって自らを適応させていくことで他者からの評価を重視し,自己評価の規準が曖昧になり,自尊感情が不安定になると考えられる。

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