1.はじめに
私たちの生活には,認知バイアスが潜んでいる。認知は,「知覚をはじめ,記憶や感情,選択,判断,意思決定など,人間の思考全般に関わる心のはたらき」であり,認知バイアスは,「無意識のうちに生じる『思考のクセ』」とされる(池田, 2014)。例えば,不都合な情報には注意を向けようとしない確証バイアスや,コイントスで何度も表が出た場合,次こそは裏が出ると思い込んでしまうギャンブラーの錯誤などがある。これらのバイアスは,私たちの認知の歪みとしてストレスの原因にもなりうる。ストレスはストレッサーを脅威だと「認知」する程度などにより個人で感じ方が変化する(Lazarus, 1988 林訳 1994)ため,個人のもつ思考のクセがストレスの捉え方に影響すると考えられる。ストレスは,胃潰瘍や偏頭痛など身体的なものだけでなく,抑うつや無力感など心理的なものとして心身に悪影響を及ぼすことが分かっている(松田, 1997)。そのため,日常的に批判的思考(クリティカルシンキング)を意識して,認知の歪みが補正されると,ストレスの柔軟な対処につながり,健康な生活を送ることができると考えられる。
批判的思考は,「証拠に基づく論理的で偏りのない思考」,「自分の思考過程を意識的に吟味する省察的で熟慮的思考」,「目標や文脈に応じて実行される目標指向的な思考」という3つの側面から定義される(楠見, 2013)。批判的思考は,人の思考において,直観的に瞬時の判断をするシステム1で生じた認知バイアスの特徴を,思考の監視的役割を担うシステム2で理解し制御するメタ認知的な流れで機能すると述べる(楠見ら, 2015 ; カーネマン, 2012)。そのため,批判的思考はストレスを認知する上で関わりをもつことが考えられる。批判的思考は,その教育方法について多く研究がされている(抱井, 2004 ; 楠見, 2012)。そのため,批判的思考の教育意義を高めるためにも,それ自体が心身にどのような影響力を有するのか,批判的思考とストレスが認知を通してどのように関わり合っているのか本研究を通して検討していく。
また,楠見(2015)によると,批判的思考には情報を読み解くための言語能力や推論能力といった技能的な能力が必要になることがわかる。しかし同時に,批判的思考は能力だけで発揮されるものではなく,そもそも個人がその能力を使いたいと思う志向性や構えとしての態度が必要になると言及されている。そのため,本研究では,批判的思考の実際の技能ではなく,志向性に対象を絞り,個人の有するクリティカルシンキング(以下 ; クリシンと略す)志向性がストレスとの向き合い方にどのように影響するのか研究を進めていく。
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