2.批判的思考


 「批判的思考」という言葉から,どのような印象を受けるだろうか。例えば,人を非難したり,敵対したりとネガティブな印象を想起した人もいるだろう。しかし,批判的思考の本質は,否定的な視点による考察ではなく,客観的な視点をもつことであり,楠見(2011)は以下の3つの側面により定義している。一つ目に,証拠に基づいた論理的な思考である。二つ目に,自身の思考過程を吟味する内省的思考である。これは,バイアスが生じないように自身の思考をモニターし,コントロールするメタ認知的プロセスを指す。三つ目に,目標や文脈に応じた目標指向的な思考である。これは,批判的思考が常に生じるわけではなく,目標に従い適切な状況で発揮されることを示す。なぜなら,楠見ら(2011)によると,批判的思考は認知的負荷が高く,日常のありとあらゆる事象に対して行うことは困難を極めるからである。さらに,認知的な負荷を避けようとすることは「認知的節約の原理」とも呼ばれる(楠見ら, 2011)。そのため,批判的思考は目標に沿って必要に応じて発揮されるという側面をもつ。

 さらに,楠見(2015)は,批判的思考のプロセスについて,四つの段階に区分する。まず,情報により主張されることを正しく捉える段階(情報の明確化)である。「なぜ」,「何が」,「他の例は?」などの問答を通して批判的思考に使われる情報を集めていく。次に,捉えた情報の信頼性を計り,隠れた前提を洗い出す段階(推論の土台の検討)となる。前段階で明確化した情報が推論に値するほど信用できるものか判断する。この判断にはメディアリテラシーや科学リテラシーを使用し,前提やバイアスを見つけていく。そして,演繹・帰納などの方法により前段階で精査した情報から客観的に結論づける段階(推論)になる。最後に,結論から意思決定をしたり,問題解決として行動に起こしたりする段階に至る。

 これらの定義や過程を踏まえ,楠見(2005)では,批判的思考が,特定の場面にかかわらない日常的な営みのなかで,状況に応じ他者との相互作用として働くものだと言及されている。


back/next