結果と考察





1,迷惑行為ビデオにおけるカウンターバランス

2,自己意識尺度における因子分析

3,自己フォーカスの効果

4,自己フォーカスの効果〜自己意識との関連性〜

5,自己意識の群別における結果






1,迷惑行為ビデオにおけるカウンターバランス

  迷惑認知尺度から記憶の残りやすさの項目を削除した15項目を「はい」2点、
「いいえ」1点として足したものを迷惑認知得点とした。
  ビデオ内容が均質なものかどうかを確認するため、2種類のビデオに対して
t検定を行ったところ、有意な差はみられなかった。これは、ビデオ内容の迷
惑のレベルが異なるということを表しており、比較的ビデオaの方が迷惑度が
高いと言える。以後の分析では、ビデオ内容のaとbで分けて分析をすること
にした。

 具体的なビデオの内容は、aの方は携帯画面に夢中になるあまり周りが見えず、
人とぶつかっても謝らないという内容である。一方、bは、図書室で、携帯電話
の着信音が鳴ってしまい、電話に出るため退出するというものである。
 着信音が鳴るということはよくないことであるが、マナーモードにし忘れる
ということは、誰にでも経験があることからも、bの迷惑行為者に対する迷惑認知
が割り引かれたと考えられる。また、その場で電話に出ずに、退出して電話に出た
ということも迷惑の認知が低かった理由であると考えられる。
 このことから、人は携帯電話を使用する状況で、携帯電話の着信音が鳴るという
ことに関しては、人のいない場所で電話に出れば、あまり迷惑とは思わず、それ
よりも画面に夢中になりすぎて、他者の存在をわかっていないという方が比較的に
迷惑と感じるということがわかった。

 しかし、人がどんなことに迷惑と感じ、どんなことに迷惑と感じないのかという
ことを詳細なことまで理解するには、さらなる検討が必要である。
  
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2,自己意識尺度における因子分析

 自己意識尺度に関する22項目について主因子法、バリマックス回転による因
子分析を行い、菅原(1984)と同様の「私的自己意識」「公的自己意識」の
2因子を抽出した。また、各因子について高い負荷を示した項目を合計したも
のを公的自己意識得点、私的自己意識得点とし、その後の分析を行った。それ
ぞれの得点について、平均より高いものをH群、平均よりも低いものをL群の
2群に分けた。またその両因子を単純に加算した全自己意識得点を算出し、そ
の得点の平均より高いものをH群、平均よりも低いものをL群とした。
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3,自己フォーカスの効果

  自己フォーカスありと自己フォーカスなしの比較をするために、条件@の同一
条件内におけるセッション1とセッション2の迷惑認知についてt検定を行った
ところ、有意な差はみられなかった(ビデオ内容a,t(26)=-1.06,n.s 、ビデ
オ内容b,t(26)=1.42,n.s.)。

 また、自己フォーカスありと自己フォーカスなしの比較として、条件@のセッ
ション1と条件Aのセッション1における迷惑認知についてt検定を行ったとこ
ろ、有意な差がみられなかった(ビデオ内容a、t(26)=.86,n.s.、ビデオ
内容b、t(26)=1.16,n.s.)。

 さらに、自己フォーカスありの状況で、セッションを繰り返すことが迷惑認知
にどのように影響しているかを確かめるため、条件Aのセッション1とセッショ
ン2についてt検定を行ったところ、有意な差がみられた(ビデオ内容a,t(26)
=-2.09,p<.05、ビデオ内容b,t(26)=3.32,p<.01)。 




 以上のような結果から、全体を通して、ビデオカメラにおいて状況的に自己に
意識的になる自己フォーカスが迷惑認知に及ぼす効果はみられず、仮説1を支持
するものではなかった。つまり、ビデオカメラは、自己を意識させるという効果
がない、さらには、意識的になることが、迷惑認知に影響を及ぼさないという可
能性が考えられる。 これは、実験室に被験者として入るということがすでに緊
張感やある種の構えが生じており、ビデオカメラで撮られているという効果はさ
ほど大きくなかったということが考えられる。
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4,自己フォーカスの効果〜自己意識との関連性〜


1)自己フォーカスの効果について

 自己フォーカス(有・無)と公的自己意識(H群・L群)、私的自己意識(H群
・L群)および全自己意識(H群・L群)のそれぞれについて2要因の分散分析を
行った。

(1)条件@:セッション1(NSF)→セッション2(SF)の比較

<ビデオ内容a>(Fig.5)
 自己フォーカス(2)×公的自己意識(2)、自己フォーカス(2)×私的自己
意識(2)、自己フォーカス(2)×全自己意識(2)において、どの主効果もみ
られなかった。また、交互作用についてもみられなかった。
 この結果、ビデオ内容aに関しては、自己フォーカスも自己意識も効果がなかっ
たが、ビデオbに比べると、全体的に迷惑認知が高いと言える。このことから、迷
惑度の高い迷惑行為を見ると、個人特性である自己意識の高さに関わらず、また状
況的な要因である自己フォーカスの有無に関わらず迷惑行為を迷惑と感じるのである。


<ビデオ内容b>(Fig.6)  自己フォーカス(2)×公的自己意識(2)については、主効果、交互作用とも みられなかった。しかし、自己フォーカス(2)×私的自己意識(2)においては、 主効果はみられなかったが、交互作用がみられた(F(1,24)=8.33,p<.01)。ま た、自己フォーカス(2)×全自己意識(2)においても主効果はみられなかった が、交互作用がみられた(F(1,24)=4.72,p<.01)。  この結果、ビデオ内容bに関して、図から読み取るところでは、どの自己意識 同じような傾向を示している。  自己意識L群については、自己フォーカスありの方が自己フォーカスなしよりも 迷惑認知が上がっており、自己フォーカスの効果がある可能性が考えられる。  つまり自己意識が高い人に関しては、自己フォーカスの効果はあまりみられな いが、自己意識が低い人に関しては、自己を強く意識するという状況はそうでない ときよりも迷惑行為を迷惑であると感じやすいということがわかった。これは、仮 説2を支持するものである
(2)条件@:セッション1(NSF)   条件A:セッション1(SF) の比較 <ビデオ内容a>(Fig.7)  自己フォーカス(2)×私的自己意識(2)については、私的自己意識の主効果 に有意な傾向がみられた(F(1,24)=3.66,p<.10)。また、交互作用にがみられた (F(1,24)=9.84,p<.01)。自己フォーカス(2)×全自己意識(2)については、 どの主効果もみられなかったが、交互作用がみられた(F(1,24)=4.49,p<.05)。  この結果、どのパターンも一貫して迷惑認知が高いという傾向を表している。つ まり、迷惑度の高い迷惑行為は、自己に意識的になるという個人特性や状況に関係 なく迷惑だと認知されやすいということが言える。
<ビデオ内容b>(Fig.8)  自己フォーカス(2)×公的自己意識(2)について、公的自己意識の主効果に 有意な傾向がみられた(F(1,24)=3.00,p<.10)。自己フォーカス(2)×私的 自己意識(2)について、自己フォーカスの主効果がに有意な傾向がみられた (F(1,24)=3.34,p<.10)。また、交互作用がみられた(F(1,24)=5.30,p<.05)。 自己フォーカス(2)×全自己意識(2)について、どの主効果もみられなかった が、交互作用に有意な差がみられた(F(1,24)=4.76,p<.05)  この結果、、自己意識の高い人についてみると、予想していた結果とは異なり、自己 を強く意識するという状況では、そうでないときよりも、迷惑行為を迷惑であると 感じにくいということが言える。これは、仮説2を支持するものではなかった。 菅原(1984)によると、公的自己意識に関しては、不安傾向と正の相関があるとし ている。自己意識の高い人の中には、逃避的行動をとってしまい、迷惑行為を認知 できなかったという可能性も考えられる。
  2)セッション回数の効果(Fig.9・10)  ビデオ内容aもbもセッション回数の主効果がみられた。自己フォーカス状況 下では、セッションを重ねるほど、迷惑認知が上がるという可能性が考えられる。 つまり、迷惑認知を見るという経験を繰り返すことによって、迷惑行為を迷惑であ ると感じやすくなる可能性が考えられる。しかし、本研究はセッション数は2回し かないため、このことを明らかにするためには、さらに自己フォーカスの状況で、 セッションを繰り返し行った検討が必要である。
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5,自己意識の群別における自己フォーカスの効果について


H群

 公的自己意識・私的自己意識・全自己意識の3つの自己意識の高い人について
言えることは、条件Aのセッション1とセッション2の間の差が有意であるとい
うことである。これは、自己意識が高い人は、自己フォーカス状況における迷惑
行為を見る経験をしておくと、次回の迷惑行為の認知に影響し、迷惑を迷惑と感
じやすくなっているということが言える。
 また、条件@のセッション1条件Aのセッション1の間についても有意、もし
くは有意な傾向があった。しかし、仮説に反して、どの自己意識得点においても
条件@のセッション1(自己フォーカスなし)よりも条件Aのセッション1(自
己フォーカスあり)の方が迷惑認知得点が低くなっている。これは、自己意識が
高い人は、自己に注意が向く状況であると、逆に迷惑認知を抑制してしまうとい
うことが言える。


L群

 公的自己意識・私的自己意識・全自己意識の3つの自己意識L群について言え
ることは、私的自己意識と全自己意識L群に関しては、条件@のセッション1と
セッション2の間に有意な差がみられた。これは、自己意識が低い人には、自己
フォーカスなし→自己フォーカスありという流れにおいて自己を意識させるよう
な状況が迷惑認知に効果がある可能性が考えられる。しかし、他には一貫した効
果はみられなかった。



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