方法
1.被験者

 三重大学教育学部学生2年生と3年生の12名(男性2名、女性10名)。平均年齢20.1歳。
 2つの講義において、6名で1つのグループを編成し、実験Aの実験群、実験Bの実験群とした。

実験A:三重大学教育学部学生6名(グループプロセス実習受講者)男性1名、女性5名。平均年齢は19.8歳。

実験B:三重大学教育学部学生6名(データ解析法受講者)男性1名、女性5名。平均年齢は20.3歳。

2.実験実施時期

実験A:2004年11月に1回実施
実験B:2004年11月上旬から12月上旬にかけて計5回実施
 実験については、それぞれの講義の時間を利用して実施した。1回の実験に要した時間は約30分〜60分。

3.実験状況

 議論において、「他者にどう思われるだろうか」という懸念は、お互いが知己の間柄であり、なおかつ今後も関係性を維持していく必要性があるからこそ生まれる意識だと考え、被験者は、同じ課程に所属している知り合い同士がよいと考えた。

 また、実験を現実の講義の一部として行ったのは、被験者に「議論をする」ということについて現実味を持たせるためである。
講義時間の一部を利用して行った実験であるので、それぞれの実験において提示した課題は、講義の内容と整合性があり、教育学部において普段から話し合うテーマとなるように設定した。以下に各実験における状況を詳しく述べた。

1)実験A

 教師の、不登校への具体的な対応例を6通り提示し、どの教師の対応が適切だと思うか、さらに、どのような対応をするべきかということについて、30分間皆で議論をするという課題を与え、6人で話し合わせた。この6通りの対応例をきっかけにして、どうすればよい対応ができるのか、皆で意見を出し合い、最終的にグループで意見をまとめることを目標とした。

2)実験B

 講義で使用している統計のテキスト「本当にわかりやすいすごく大切なことが書いてあるごく初歩の統計の本(以下、テキスト)」(吉田寿夫,1998 北大路書房)をもとに、それぞれが提示されたテキストの範囲(第1回から第5回まで毎回指定の範囲)の中で内容が理解できない箇所を出し合い、皆で解決するという課題を与え、6人で話しあわせた。

4.実験手続き

 実験を実施した前の週に、事前の質問紙調査を行った。

実験実施当日は、実験A、B、ともに、被験者は3人ずつ向かい合って座った。被験者の様子を、両側からビデオカメラで録画した。また、机の上にボイスレコーダーを設置して発話を記録し、著者が実験室の端に着席する非参加観察を行った。

 実験Aについては、話し合いが終了した直後に事後の質問紙調査を実施した。
 実験Bについては、全てのセッションが終わった後に事後の質問紙調査を実施した。


5.質問紙の構成

 事前の質問紙は、自意識尺度、議論スキル尺度(DS尺度)、対人恐怖心性尺度で構成した。
 事後の質問紙は、対人恐怖心性尺度(事前のものと同じ)と、著者独自に作った質問項目で構成した。

1)自意識尺度
 菅原(1984)によって作成された自意識尺度を使用した。

2)議論スキル尺度(DS尺度)
 被験者自身の議論スキルを測定するために、丸野・加藤(1996)によって作成された、議論スキル尺度(Discussion-Skill尺度;以下、DS尺度)を利用した。

3)対人恐怖心性尺度
 対人不安傾向を測定することを目的に、堀井・小川(1996;1997)によって作成された対人恐怖心性尺度を使用した。

4)その他の質問項目
 @テーマの経験、A言いたいことが言えたかどうか、B話し合いのある講義の好意度、Cディスカッション、ディベートの経験、D議論では言いたいことをいうべきか、について、回答を求めた。
 
6.分析方法

 議論場面での各発話が、議論全体に対して果たしている役割を、カテゴリー分類を用いて検討するため、COLT(Communicative Orientation of Language Teaching,A.wright&K.Baily,1992)による談話分析及び、柴田ら(1999)の開発したカテゴリーシステムをもとに、以下の6つのカテゴリーに分類した。

Table 1 カテゴリー表  

カテゴリー

内容及び具体事例

1.談話の制御・C

談話の継続に関して、それをコントロールすること

2.推論・R

談話の内容について論理立てようとすること

3.情報付加・I

談話の充実のために、新たな情報の付加を行うこと

4.意志の表明・M

談話の中で、自らの意志を表明すること

5.質疑応答・Q

談話の内容理解のため、単純な質問と応答を行うこと

6.その他・O

テーマに関係ない話題