問題と目的
<問題>
平成7年4月に初等中等教育局長決裁により「スクールカウンセラー(以下文中ではSCと略記)活用調査研究委託実施要項」が各県に示され、公立学校へのSC導入が始まってから10年がたとうとしている。
SC導入の目的は、いじめ、校内暴力、不登校等の生徒指導上の諸課題に効果的に取り組めるようにするためのもので、子どもへのカウンセリングだけでなく、教師や養護教諭に対してのスーパーヴィジョンやコンサルテーション活動といった援助(山本,1995)でもあった。しかし、学校現場へのSC導入についての意識調査(伊藤,1998)によると、SC郡はSCの役割として“教師の援助”を高く評価し、子どもへのカウンセリングのような直接援助を念頭に置きながらも、それに加えて学校や教師の援助力の向上に対する援助を通して間接的に子どもの援助を行う間接援助を重視して取り組もうとしている。一方教師郡は“教師援助”という役割をSCにあまり期待しておらず、むしろ教師自身の力で解決すべきことと、とらえているものが多いということが明らかにされた。このように、SCに期待されている活動が、対象である教師の思いとは異なることが報告されている。
また、この10年の間に数多くの学校にSCが配置され、SCを交えた子どもの援助が試みられるとともに、その役割を期待されているのが養護教諭である。“保健室登校”の児童・生徒の増加により、心身両面のケアを担う場としての保健室の存在意義が再確認され、実際にカウンセラー的な役割を果たしている養護教諭も多い。養護教諭とSCは、ともに教科指導に携わらず、評価を担わない立場にあり、子どもたちの傷ついた部分、弱い部分にかかわるという特徴を持つ。さらに、学年の枠を超え、学校全体にかかわる立場にある。このような共通点をもつ養護教諭とSCが連携していくには、両者がいかに役割分担し、協力体制をもつかが重要なポイントである(鵜養,1995)といえよう。しかし、養護教諭の多くは、“身体と心に分けてSCと役割分担することは不可能”と考え、“SCの導入よりも養護教諭の複数配置や教職員増員を先決と考えている”といった報告もあり(安福,1998)、SCに期待される連携活動が、連携の対象である養護教諭の思いと異なることがある。伊藤(2000)によると、養護教諭とSCが協力体制にある学校と、互いに独立の体制にある学校の割合はおおよそ半々であり、先の報告にあったような内面の対立からSCを含めた協力体制がうまくできない学校が多いといえる。
このようなSCと教師たちの思いのすれ違いは、両者が信頼関係を築くことによって解消されていかなければならない問題である。そのため教師とSCの信頼関係づくりの重要さは多く指摘されている。SCが学校の中で教師たちと信頼関係をもち、協力して活動していくためには、自分から教師の中に積極的に入っていき、SC自身あるいはカウンセリング活動について教師の理解を得る必要がある。また、教師の理解を得るだけでなく、SC自身も学校教育、学校の方針、学校の状況などについて勉強し、理解して活動する必要がある(最上,1995)。
今後SCの全校配置が進められていくなか、教師とSCの連携の充実がますます必要になっていくという点で、信頼関づくりにおける課題を改めて検討することが求められているといえる。
<目的>
実際にSCが配置されている学校では、どのような体制で連携が行われているのか。また、信頼関係づくりのプロセスと、その中での養護教諭の働きはどのようなものか。さらに、信頼関係づくりにおいて重要なことはなにか。これらを調査協力校の養護教諭とSCの実際の関係・連携をもとに明らかにすることが本研究の目的である。
back
next