1.パーソナリティ評定尺度の検討

2.教師の指導観尺度の検討と指導型分類

3.各想起児童・生徒におけるパーソナリティ評定4下位尺度間の関係性

4.指導型が各想起児童・生徒認知に及ぼす影響について



1.パーソナリティ評定尺度の検討

  因子分析(最尤法・直接オブリミン法)の結果、「温厚さ」、「活発さ」、「自己表出性」、「落ち着き」の4因子が得られた(Figure1)。





                      Figure1 パーソナリティ評定4下位尺度


※「温厚さ」因子
 天根・吉田(1984)における「温厚さ」次元と類似しており、蘭(1990a)における「社会性」の因子や、そして越(2002)における人間関係への配慮のカテゴリーと性格・他者への関わりのカテゴリーにも対応している。これらのことから、他者に対する思いやりや人としての温かさといった側面をあらわす「温厚さ」の因子は現在の学校現場においても児童・生徒をみつめる側面として反映されていると考えられる。

※「活発さ」因子
 天根・吉田(1984)における「活発さ」次元と一致しており、蘭(1990a)における「活動性」の因子とも一致している。また、越(2002)における性格・明るさのカテゴリーが本研究における「活発さ」因子と類似する内容であると言える。このため、明るさや積極性を示す側面は、対人関係を豊かにし、円滑に維持していくだけでなく、学習的な場面においても児童・生徒が自己を表現したり、意見などを主張するなど、教師にとって教育における多くの場面で児童・生徒をみつめる側面として普遍的なものとして捉えられていると考えられる。

※「落ち着き」因子
 「活発さ」因子と同様に、天根・吉田(1984)における「落ち着き」次元と一致しており、蘭(1990a)における「安定性」の因子とも一致している。また、越(2002)は、天根・吉田(1984)における「落ち着き」次元が行動統制のとりやすさ・とれやすさのカテゴリーに表現されているとしており、「温厚さ」や「活発さ」同様、現在の学校現場において児童・生徒をみつめる側面として捉えられていると考えられる。「落ち着き」の認知次元が教師の児童・生徒の認知次元としてみられるのは、児童・生徒自身の行動を統制する視点は、教師がクラスという集団の中で多くの児童・生徒を指導していかなければならない教育現場にあって、学級運営を円滑にすすめていくために重要とされる視点であると考えているため、教育現場で求められていることが多様になった現在でも変わらず児童・生徒の認知次元としてみられるのではないかと推察される。

※「自己表出性」因子
 また、
本研究において特徴的であったのは、「自己表出性」の因子である。自己主張ができるかどうかや、自己を表現できるかどうかについては、越(2002)においても性格・表出性のカテゴリーが得られており、クラスにおける友人関係などの対人関係の中で、自分の意見を適切に主張したり、学習などの場面においても話し合いや、発表など自分の考えや感情を他者の立場を配慮しながら表現するコミュニケーション能力が非常に重視されている教育現場において、教師が児童・生徒をみつめる側面としてあらわれていることは、現在の教育現場で求められていることを反映していると考えられる。本研究で得られた「自己表出性」は、それに加えて、意志の強さや知的な側面もみられた。これらの側面は、天根・吉田(1984)においては、「聡明さ」次元や「根気強さ」次元といった「学業面における望ましさ」次元を構成する側面であり、蘭(1990a)においても「知的意欲」の因子として捉えられている側面である。よって、適切に自己主張をすることや、集団の中で他者の立場を配慮しながら自己を表現することを教師が一つの知的側面として捉えていると考えられる



2.教師の指導観尺度の検討と指導型分類


2−1.教師の指導観尺度の検討
  因子分析(主因子法・バリマックス回転)の結果、「7.長所をより伸ばすように指導する」、「25.子どもがのびのび行動できるように指導する」、「10.児童・生徒の個性を伸ばすように指導する」、「16.自分で考えて判断することができるように指導する」などの項目に高い因子負荷がみられ、
児童・生徒の主体的な行動や個性を尊重した指導を重視している項目と考えられた「個性尊重」因子と、「24.周りの状況を考えて行動できるように指導する」、「18.クラスのまとまりを高める指導をする」、「11.基本的なルールをしつける指導をする」などの項目に高い因子負荷がみられ、児童・生徒が集団の中でのまとまりや、協調性を大切にした指導をしてくことを重視している項目と考えられた「集団協調」因子、そして、「5.子どもが粘り強くやるよう指導する」、「2.何事にも一生懸命取り組むように指導する」、「15.自分の経験に基づいて指導する」などに高い因子負荷がみられ、児童・生徒の学習過程を大切にしたり、自己の教職経験に基づく指導を重視している項目と考えられた、「経験・学習過程重視」因子の3つの因子が得られた。

2−2.教師の指導観3下位尺度による指導型分類

  教師の指導観を分類するために、教師の指導観3下位尺度の合成得点を用いてWard法によるクラスター分析を行い、4つのクラスターを得た。得られた4つのクラスターの特徴を検討するために、4つのクラスターを独立変数に、指導観3下位尺度の合成得点を従属変数とした1要因の分散分析を行った。
 その結果、「個性尊重」、「集団協調」、「経験・学習過程重視」ともに重視している程度が低いため、
どれも全般的に重視する程度が低いか、固定した指導観を持たない群である「自由型」、「個性尊重」、「経験・学習過程重視」が2番目に高く、「集団協調」が「自由型」に次いで低いため、過去の自分の教職における経験をもとに、児童・生徒一人ひとりの個性や学習過程を大切にした指導を重視している群である「個性尊重重視型」、逆に「集団協調」を重視している程度が2番目に高く、「個性尊重」が「自由型」に次いで低いため、クラスなどの集団の中においての協調性やまとまりを重視している群である「集団協調重視型」、「個性尊重」、「集団協調」、「経験・学習過程重視」ともに重視している程度が高いため、児童・生徒の教育活動全般に目を向けながら指導しようとしている群である「全般重視型」の4つに分類することとした(Figure2)。



              Figure2 各クラスターの指導観3下位尺度合成得点(平均値からの距離)



3.各想起児童・生徒におけるパーソナリティ評定4下位尺度間の関係性

  想起した「ウマの合う児童・生徒」と「ウマの合わない児童・生徒」、そして「理想の児童・生徒」におけるパーソナリティ評定の下位尺度間にどのような関連性があるのかをみるためにそれぞれについて相関分析を行った(Table1)。
 その結果、「ウマの合う児童・生徒」と「ウマの合わない児童・生徒」の各下位尺度間には有意な相関はみられなかった。「ウマの合う児童・生徒」の「活発さ」得点は、「理想の児童・生徒」の「温厚さ」得点との間に弱い正の相関がみられ(r=.371,p<.01)、「活発さ」得点、「自己表出性」得点との間においては比較的強い正の相関がみられた(活発さ:r=.563,p<.01、自己表出:r=.519,p<.01)。つまり、ウマが合うと考えている児童・生徒の活発さを高く評定している教師は、理想の児童・生徒の温厚さや活発さ、自己表出性を高く評定しているということである。また、「ウマの合う児童・生徒」の「温厚さ」得点は、「理想の児童・生徒」の「温厚さ」得点との間に弱い正の相関がみられた(r=.289,p<.01)。つまり、ウマが合うと考えている児童・生徒の温厚さを高く評定している教師は、理想の児童・生徒の温厚さも高く評定しているということである。
 また、「ウマの合わない児童・生徒」の「温厚さ」得点と「理想の児童・生徒」の「温厚さ」得点との間に弱い負の相関がみられ(r=-.208,p<.05)、「ウマの合わない児童・生徒」の「落ち着き」得点と「理想の児童・生徒」の「自己表出性」得点との間にも弱い負の相関がみられた(r=-.262,p<.05)。つまり、ウマが合わないと考えている児童・生徒の温厚さを低く評定している教師は、理想の児童・生徒の温厚さについての評定が高いということである。また、ウマの合わない児童・生徒の落ち着きを低く評定している教師は、理想の児童・生徒の自己表出性の評定が高いということである。これらの結果から、ウマが合うと考えている児童・生徒のパーソナリティ評定の下位尺度と理想の児童・生徒のパーソナリティ評定の下位尺度間には多くの正の相関がみられることから、
ウマが合うと考えている児童・生徒と理想の児童・生徒の認知が類似していると考えられる



                       Table1 各想起児童におけるパーソナリティ評定4下位尺度間の相関




4.指導型が各想起児童・生徒認知に及ぼす影響について

 教師が児童・生徒を指導する上で重視していることが、3人の想起児童・生徒に対する認知にどのように影響するのかを検討するために、クラスター分析において得た各指導型(4)と想起したそれぞれの児童・生徒(3)を独立変数に、パーソナリティ評定尺度の因子分析結果から得られた各下位因子の合成得点を従属変数として2要因の分散分析(指導型:被験者間要因、想起児童・生徒:被験者内要因)を行った。
 その結果、どの合成得点においても、指導型と児童・生徒による交互作用はみられなかった。一方で、全ての因子において、想起した児童・生徒による主効果がみられた(Figure3)。
 以下では、それらの結果の中から特徴的な部分を取り上げて考察する。



        Figure3 各想起人物におけるパーソナリティ評定4下位尺度の因子得点平均

 Tukey法による多重比較を行った結果、「温厚さ」因子においては、全ての児童・生徒との間に有意な差がみられた(Figure4)。つまり、理想の児童・生徒>ウマの合う児童・生徒>ウマの合わない児童・生徒の順で温厚だと認知しているということである。また、「温厚さ」因子においては、指導型による主効果がみられたため(F(3,90)=2.99,p<.01)、Tukey法による多重比較を行った結果、自由型と全般重視型との間に5%水準で有意な差がみられた(Figure4)。児童・生徒の個性や主体性、そして集団における協調性、学習の過程など学級生活における全般的な指導を重視している教師は、それを重視していない教師よりも児童・生徒の温厚さを高く評定していることが示された。天根・吉田(1984)によれば、「温厚さ」次元は教師の児童・生徒認知のウエイト(暗黙に重視する程度)において、最も高い次元であることを示している
教師の児童・生徒を認知する上で大きなウエイトを持つと考えられる「温厚さ」の因子において指導型による違いが示されたことは、教師の指導観が児童・生徒の認知に大きな影響を持っていることを示すものであると考えられる。



    Figure4 各想起人物における各指導型の「温厚さ」因子における因子得点平均 



 
また、有意ではないが「自己表出性」因子についても同様の結果が得られた。つまり、全般重視型の教師の方が自由型の教師よりも児童・生徒の自己表出性を高く評価しているということである。
 「自己表出性」は児童・生徒の知的な認知側面と結びつく側面であると考えられる。知的な側面は教師の児童・生徒認知において大きな柱として捉えられており、その側面において指導型による違いがある可能性が示されたという点においても、教師の指導観の影響を指摘できると考えられる。



 Figure5 各想起人物における各指導型の「自己表出性」因子における因子得点平均


 
児童・生徒を指導する上で、児童・生徒の個性や主体性、そして集団における協調性、学習の過程など学級生活における
全般的な指導を重視している教師は、これらの側面をあまり重視していないと考えられる教師よりも全体的に児童・生徒をポジティブに認知している
 よって、
多様な側面を重視している教師は、児童・生徒の肯定的な側面を引き出しやすいのではないかと考えられる

 最後に、「ウマの合う児童・生徒」のパーソナリティ評定4下位尺度と「理想の児童・生徒」のパーソナリティ評定4下位尺度との間に全般的に正の相関関係がみられた。「理想の児童・生徒」は、こう育って欲しいと考える児童・生徒であり、教師の持つ指導観が多分に反映されていることを考えると、教師の指導観が教師の児童・生徒に対する好意・非好意に影響を与えていることは十分に指摘できる。
 
教師がこのような児童・生徒認知の方向性を理解し、指導に対する考えを客観的に考える機会を持つことは、クラスにいる指導の方略を見出しにくいと考える児童・生徒や、ウマが合わないと感じる児童・生徒に対する認知を再度見直し、児童・生徒への指導や支援の新たな方略に気づくきっかけとなり、学級運営を助ける要因として作用する可能性がある。それは、結果として児童・生徒の学級適応感や、発達によい影響をもたらすと言える。


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