【要約】
本研究では、子どもの頃の親との関係および青年期における親密な他者との関係の在り方が、一般的な対人関係や日々の生活における幸福感に対して、どのような関連をもつのかという点について、愛着理論からの検討を試みるべく、三重大学の学生および大学院生233名(男性96名、女性137名)を対象として質問紙調査を実施した。
本研究における第1の目的は、愛着理論における初期の対象すなわち親への愛着は、青年の対人関係の持ち方に対して主だった影響力をもつのか、そしてそれに対して親以外の対象への愛着の影響力はどの程度なのかを明らかにすること、また、親への愛着のうち対象が父親か母親か、親以外の対象への愛着のうち対象が友人か恋人かについてといった、対象の違いによる差および性差について検討し、愛着の発達的変容の可能性を明らかにすることであった。
分析の結果、過去の親への愛着よりも現在の親以外の対象への愛着の方が、一般的な他者への対人的な構えにより影響を与えているということが明らかになった。そして、男性よりも女性の方が、親以外の対象への愛着から影響を受ける傾向がみられた。また、青年の親への愛着は、父親よりも母親に対する愛着の方が良好であること、青年の親以外の対象への愛着の持ち方は、友人と恋人では異なるということが明らかになった。さらに、愛着の良好さおよび影響の仕方には、対象に関わらず性差がみられた。
第2の目的は、親への愛着・親以外の対象への愛着および一般的な他者への対人的構えは、青年の日々の充実感にどのような影響を与えているのかを検討することで、青年にとって親密な他者という存在の重要性を明らかにすることであった。
分析の結果、親への愛着から充実感への関連はみられず、親以外の対象への愛着と対人的構えが、充実感に影響を与えているということが明らかになった。このことから、青年期において、親友や恋人といった親以外の重要な他者との間に、親密で良好な関係を形成することの重要性が改めて明らかにされ、愛着および内的作業モデルが、後の経験の中で常に再構成されるという、発達的変容の可能性が明らかにされた。