総合考察
本稿の目的は、小学生のコミュニケーション能力を高めるための心理学をベースとした教育実践において、子どものコミュニケーション能力の発達に対する効果を検討するとともに、活動の実施者である学生自身の変化も検討するというものであった。

 第1章では、Performance Assessment(PA)に基づくコミュニケーション能力の評価方法の検討を行い、PAに基づいて子どものコミュニケーション能力の活動による効果を検討した。
 研究1において、廣岡ら(印刷中)が確立してきたPAに基づくコミュニケーション能力の評価について、さらなる信頼性を確保した。また、より信頼性を高める方法として、評定者の協議による再評定を行うことが有効であると考えられた。
 研究2では、本活動で用いられてきたPAが、一般の人物にも理解でき、活用できるものであるのかを確かめるため、活動に関わっていない人物による評定も行ったが、活動に関わっていない人物によっても充分評定は可能であるということが明らかとなった。
 研究3では、評定者の協議による再評定値を用いて、活動初期と活動後期の子どもの社会的スキルの変化を検討した。その結果、学習前後で比較することとなったスキルについては水準の向上が見られ、学習の効果が示された。一方で他のスキルについては、それほど変化はしていなかった。しかし、いくつかのスキルにおいて水準が向上している子どもも認められた。また、そのように子どもの変化に実施者が気づく方法として、PAは有効であることが示唆された。

 第2章においては、活動後のスタッフの感想をもとに、学生スタッフの活動時期による視点の変化を追った。この結果、この活動が持ついくつかの特色が学生の視点の変化に影響を及ぼしていることが明らかになった。
 第一に、活動が長期間であることや、心理学をベースとしているという特色により、学生スタッフの「子ども観」をただ育てるだけでなく、そこに心理学的な理論を持って子どもを見るような視点が身につくことが明らかとなった。また、このことから、教員養成課程に所属する学生にとって必要不可欠なスキルであるといえる「子どもの変化」や「子どもの評価」を捉える力が身につくということが明らかとなった。
 第二に、「子どもの評価」について目をむけるようになるという学生スタッフの変化は、PAの導入を起因としていることであるということも示された。
 第三に、メンバーの交代が起こるスタッフ集団において起こる、スタッフ同士の葛藤がその集団の発展を促すということも示唆された。

 このように、わくわくコミュニケーションクラブでは、心理学という学問的背景を持つことによって、学生が自然と子どもを評価するようになり、具体的な評価方法を検討し、さらにそれを確立していく中で、活動自体の問題点などに目をむけるようになり、活動を改善し、その活動による子どもへの効果を検討するというブラッシュアップサイクルを繰り返してきた。

 この活動が子どもに与えた効果について、心理学研究の方法論的に効果があったと断言することはできない。しかし、第1章について述べたように、PAによって実施者が、その子どものありのままの姿を評価し、一段階でも上のスキルを目指して子どもを支援するということは、こういった実践活動においては充分意味のある目標となる。スタッフも実際にそのようにPAを活用していた。よって、PAは心理学をベースとした教育実践活動の現場において今後大いに役立てることができるであろう。

 また、心理学をベースとした教育実践において、学生は現場での教育と理論を行き来することで、様々な視点を育てるということから、子どもの教育者、支援者に必要とされる基本的なスキルの獲得や、大学生自身のコミュニケーション能力の獲得のためにも、このような実践は有意義であるということが言えるであろう。

 このように、心理学をベースとした現場と理論を行き来する教育活動は、ある程度の期間を経験することで、対象となる小学生にも、実施者である学生にも、様々な面での成長をもたらすのである。