第2章・研究2
■問題と目的■
 研究1では、3年間の活動の中で、年度が替わる折やPAを導入する折など、時期によってスタッフの意識の持ち方が変化し、様々な観点を持つことが明らかとなった。
 しかし、研究1は3年間活動を続けた1人の学生が書いた感想の、記述量の変化を検討するものであったが、経験年数や役割、関わり方の度合いなどの異なる他のスタッフも、それぞれの活動期間の中で様々な認識の変化を経験するはずである。
 また、研究1で扱った感想では、自己の変化に目をむけて書いているわけではなく、スタッフ自身が自分の変化をどのように認知しているのかまではわからない。つまり、学生が実際に獲得していると考えられるものを、本人が認知しているかどうかはわからないのである。
 そこで、研究2では、研究1において、スタッフ1名の分析結果だけでは捉えきれなかった学生の自己認知の変化について検討するために、著者が設定した質問項目への回答をもとに、今年度活動してきた学生たちが、どのようなことを自己の変化として捉えているのかということを検討する。さらに、それら自己の変化への認知が活動スタッフとしての経験年数と関係があるのかどうかをまとめることを目的とする。

■方法■
1)対象者:今年度(2006年度)の春クラスから秋クラスまで活動スタッフとして参加した学生7名。(活動経験年数は、1年めが3人、2年めが3人、3年めが1人であった。)

2)実施期間:2006年12月3日〜5日
 なお、この時期は2006年度秋クラスが終了した直後であり、活動スタッフにとっては秋クラス全体についての感想を書く時期でもあった。秋クラスが終了した直後ということで、自身を振り返る良い機会であると判断し、この時期に実施した。

3)手続き:スタッフ同士のコミュニケーションや議論をするためのツールとして活用していたe-learningシステムであるMoodleで、学生スタッフに以下の3点について、例を挙げながら自由記述で回答を求めた。質問項目は、子ども観、子どもと関わる者としての自分の変化など、研究1とも関わる項目で、なおかつ自分自身の変化として目をむけやすいと考えられるものを筆者が考え設定した。例については、藤田(2004)を参考に筆者が記述した。
1.今までのわくわくコミュニケーションクラブでの活動を通して子どもを見る目は変化はあったか?子ども観はどう変わったか?
2.今までのわくわくコミュニケーションクラブでの活動を通して子どもと関わる者(教育者・支援者等)としての変化や学習はあったか?
3.今までのわくわくコミュニケーションクラブでの活動を通して自分自身のコミュニケーションについて変化や学習はあったか?

■結果と考察■
 
 質問1については、 活動期間約1年の学生の記述の特徴は、子ども観が複雑になったことや、接する子どもが全て初めてなので子どもについての感想を記述していることが多かった。一方、活動期間約2年目の学生の記述の特徴は、子どもを評価したり、成長や変化に気づいている記述が見られた。これは、研究1で述べたように、活動年数を経ることによって学生の視点の成長した結果であると言えるだろう。
 また、活動期間2年目の学生は、PAという評価をの確立に関わり、実際に子どもを評定する中で、スタッフの子どもを見る視点や評価の枠組みが養われてきていることがうかがえる。

 質問2についての回答をまとめると以下の2点であった。
 まず第1点目として、子どもとの接し方に関して自己評価をする点である。例えば、子どもたちの前に立って司会進行をする時に堂々とできるようになったと自己評価しているスタッフや子どもの目線に立つなど、小学生への対応を学んだと自己評価しているスタッフも何人もいた。中でも、他のスタッフのが子どもと関わる時の姿勢に関心を抱いたり、他のスタッフから指摘を受ける中で子どもへの対応の仕方を学んだという記述もいくつか見られた。これは、研究1において「スタッフへの評価」の視点が時期とともに増えていることが示されたこととも関係しており、活動を通して、他者の行動への目がいくようになるということが考えられるだろう。このようにスタッフ同士も関わり方について学習し合うのは、このような活動経験の差がある学生で構成されるボランティア集団が持つ特色の一つであるといえよう。
 第2点目としては、「子どもを誉められるようになった」、「叱れるようになった」「待つことができるようになった」など、教育に関しての基本的なスキルを身につけることができたと自己評価していたスタッフもいた。
 このように、多くのスタッフがいることによって、子どもに対する様々な接し方や関わり方を身につけることができる。このことから、活動に参加しているスタッフたちは、子ども支援をする人間にとって基本的に必要だとされるスキルを、相互に学習し合って身につけていると言える。

 質問3についての回答をまとめると以下の2点であった。
 第1点目として多かった記述は、実際に活動の中で子どもたちに呈示してきた「気持ちのよいあいさつのコツ」「聞き方のコツ」「頼み方のコツ」「断り方のコツ」などをわくわくコミュニケーションに関わる活動以外の普段の生活でも意識するようになったというものであった。このことから、心理学をベースとした教育実践は、教育内容をそのまま実施者である学生も学ぶことができ、かつ、「コツ」として呈示したものというものは子どもにとっても学生にとっても意識しやすいものとなる可能性が示唆された。またTable 2-4においてスタッフDも記述しているように、子どもは学生のことをよく見ているのだと学生自身が認知することから「子どもに教えることは自分にもできなくてはいけない」と思うようになり、教育者としての意識が芽生えていることも考えられる。
 第2点目として、「話し合い」のスキルについて獲得したと自己評価しているスタッフもいた。これは、わくわくコミュニケーションクラブの活動では、グループで物事を決めたり、感想をシェアリングしたりするので、子どもに対して「話し合い」のスキルを高めるように意識した活動を心がけているためである。加えて、活動を企画や運営するためのミーティングでは、スタッフとの様々な話し合いを経験しており、スタッフはその都度話し合いのリーダーやフォロワーとなることから、話し合いのスキルについても獲得したと認知したためだと考えられる。このように、心理学をベースとした教育実践により、実施者である学生スタッフも、活動で期待されるような社会性やコミュニケーション能力の基礎を獲得しようという姿勢を持ち、今後望まれる教員としての資質も身につけることが可能であることが示された。